次に「部下の成長を促す」という目的です。私は、アメリカの教育理論家であるデイビッド・A・コルブの提唱する「経験学習モデル」のフレームワークが、部下の成長支援には最も役立つ方法だと考えています。これは、日々の業務をこなすことの連続だけでは成長は難しく、経験したことを「これはどういうことか」と振り返り(内省的観察)、自分の中で言語化(概念化)し、それを使って次のチャレンジをしていく(能動的実験)というサイクルが成長には重要だという考え方です。普段目の前の仕事に対処しているだけでは、なかなか振り返る時間を取るのは難しいものですが、1on1であれば促すことができます。
3つ目は「信頼関係を構築する」という目的です。先にお話しした2つの目的に沿った働きかけをする上で、いくら正しいアドバイスをしても、上司と部下のあいだに信頼関係が築けていないうちは部下の行動の後押しにはなりません。「人は自分を理解してくれる人に心を開く」というのがコミュニケーションの原点です。部下の話をしっかり傾聴して価値観を知ることは、マネジメントの基本だと胸に刻むようにしてください。
ここまで読んでいただければ、1on1は上司が部下をコントロールするための時間ではなく、部下が仕事の成果を出す、部下自身が成長することを支援するための時間だとおわかりになるかと思います。
1on1を上司のための時間とはき違えないために
このように1on1は部下のための時間ですが、ネット上などでは「1on1を苦痛に感じている」という部下らしき人たちからの声を見かけます。例えば、「一対一で逃げ場のない説教の時間になっている」「評価が下がりそうで本心を話せない」「上司の都合で頻度や日程がコロコロ変わる」「場当たり的な話や業務報告に終始している」――といった不満です。
1on1が、単に部下から報告を受けて、それに対する指示やダメ出しをする場になり、結果として信頼関係が構築できず、表面的な会話をするだけの時間になってしまっているのは、上司が「部下のための時間」ではなく「上司のための時間」だとはき違えているからです。
しかし、これは単純に上司のコミュニケーションスキルが低いせいだと片づけることはできません。従来の組織管理のロジックでは、上が決めたことをメンバーが歯車のように遂行する、その働きをコントロールすることが大事だとされてきました。その発想を根底にもったまま1on1という手法だけ導入しても、部下の自発的な成長を促すための時間にはならないのです。