デジタルとアナログを
賢く組み合わせる知恵

浜田最後の質問になりますが、アフターコロナを見据えると、今後の製薬セールスの現場はどう変わっていくとお考えですか。

須田当社にはMR以外に、MSL(メディカルサイエンスリエゾン)というスタッフがいます。学術的な情報を医療機関に提供する専門家なのですが、情報提供というプッシュ型のコミュニケーションにおいては専門性の高いMSLの存在感が高まってくるのは間違いないでしょう。しかしプル型のコミュニケーションにおいては、MRが重要な役割を担うはずです。医療現場からリアルな声を集めてくるのは彼らですから。

 たとえば新しい薬の作用機序説明においても、デジタルで情報提供したらそれで終わりではありません。むしろ大事なのは、どう伝わったかです。それをきちんと確認しなければならず、そこには対面のコミュニケーションも必要になります。デジタルで効率化を追求しすぎるのはむしろ危うい、とさえ思っています。

浜田製薬会社としては正しく薬を使ってもらっているか、その理解度を確認する責任がある。だからデジタルとアナログのベストミックスが不可欠だということですね。

須田その通りです。医療従事者に医薬品や疾患の情報を提供し、正しく理解していただいたうえで安心して処方できるようにサポートすることが、MRの最も重要な役割ですから。だからこそ彼らは営業ではなく、「医薬情報提供者」なのです。デジタルとアナログのベストミックスで、医療現場と製薬会社のシナジーを最大限に引き出すコミュニケーションを目指すべきだと考えます。

 一方で、デジタルには顧客の現場で発生している情報を直接収集しやすいというメリットがあります。これまではMRとのコミュニケーションを通じて、医療従事者の声までは聞くことができました。でも、その先にいる患者さんが実際に薬をどのように服用して、それがどう作用しているか、具体的には見ることができませんでした。効果や副作用は患者さんの体の中で起きているものですが、我々製薬会社にとって、そこがリアルに見えないことは大きな課題です。今後、DXによって解決すべき領域だといえますね。

浜田たしかにデジタルはこれまで見えなかったものを「見える化」する力を持っています。しかしその見える化できたものに対してどう対応していくかは、人間の判断が必要となってきますね。

須田AIによるディープラーニングが進化したいま、企業は最新データを使って将来を予測し、判断を下すことができるようになりました。ただし今後、不確実性が高くなればなるほど、過去のデータに基づく予測が役立たないことも出てくるでしょう。

 飛行機のオートパイロットシステムが万能ではないように、やはり有事では、人間の力が求められるのです。「デジタル化したら人はいらなくなる」といった話をよく耳にしますが、オートパイロットで進める時と人間みずからが操縦すべき時を適切に見定めることが重要です。

浜田当社でも、人の仕事をテクノロジーに置き換えていくニーズがある一方で、人が正しく判断することができるよう、テクノロジーがそれを支えるニーズも強くあります。デジタルが加速度的に進化しても、人間のやるべきことや判断すべきことはしっかり残っており、テクノロジーと人間のベストミックスが不可欠です。デジタルとアナログを賢く組み合わせる知恵、今後はそれがより求められます。

企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部