会社ぐるみでどこか「おもしろがっている」ことの価値

玉腰 技能実習制度で実習生が日本で過ごす期間は3年から5年です。彼ら彼女たちの長い人生の中で、たった3年から5年――この短い期間に体験した日本の印象を、その後の長い人生で多くの人に語る。それが今後、累計数十万人以上になり、百万人を超えて、さらに増えていくでしょう。その影響規模は国際交流基金*2 が展開する「広報外交」に勝るようにも思えます。

 つまり、グローバル化が進んだいまでは、国際関係の中でも四つ目の「民間関係」の交流のボリュームが大きく、もたらす影響が極めて大きいということです。

 先ほど挙げた1から3は国益の増進を目的に活動が行われますが、この四つ目の「民間関係」はそれにとらわれません。多分、大切なことは、お互いに楽しくつきあえるかどうかでしょう。最終的なアウトプットとして望まれるのは、「笑顔」ではないでしょうか。

 外国人と一緒に働きながら笑顔が生まれている会社はたくさんあります。その共通点として気づくのは、みんなが会社ぐるみでどこか「おもしろがっている」ということです。

 遠い国から来た、異なる生活習慣を持った人たちと日々働くのをおもしろがっている。カタコトの日本語で何を言おうとしているのかを察しながら、それをおもしろがっている。日本の食べ物を食べさせてみて、おもしろがっている。交換日記で日本語をチェックしながら、おもしろがっている。外国人がこたつを初めて使って喜ぶのを見て、おもしろがっている。一緒にバスケットボールや釣りやカラオケを楽しんで、おもしろがっている。

 おもしろがっているといっても、決して嘲笑しているという意味ではありません。一緒に遊んでいる、新鮮な展開を微笑(ほほえ)ましく見て楽しんでいるというような感じです。

 昔、たしか、関東地方のテレビ局だったと思うのですが、「違うから楽しい。同じだからうれしい」というようなキャッチフレーズがありました。異文化交流の要諦はこれに尽きるでしょう。それが傍目から見れば「おもしろがっている」ということでしょう。

東北地方の外国人技能実習生たちと地元の工場が成し得たリアルな交流▲[外国人技能実習機構]のホームページでは、英語・中国語・ベトナム語・タガログ語・インドネシア語・タイ語・カンボジア語・ミャンマー語・モンゴル語の外国語9言語で情報を案内している。
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 技能実習制度というのは、1990年代以降、高齢化や人口減少が進み、人手不足が深刻化していくなかで、しかしながら労働移民は受け入れないという建前は表向き堅持しつつ、外国人労働者を引き入れるのに利用されてきた制度だと、わたしは思っています。平成の間に新自由主義化が推し進められ、雇用の非正規化が進み、社会保障費の増額、消費税の増税、低所得者層の所得低下が進み、日本人で引き受け手がなくなった最低賃金職種を外国人でまかなうものなのかもしれません。この制度で外国人受け入れ*3 が増加している背景と、制度の適否そのものの検討は重ねられるべきでしょう。

 ただ、それはそれとして、この制度ですでに多くの外国人を呼び込み、共生が始まっている事実は変えられません。多くの現場で、外国人とともに道路を作ったり、被災地を復旧したり、老人を介護したり、畑を作るというチームワークが試みられています。国籍や生い立ちを超えて、仕事で一緒に汗をかいている。もう、外国人の人手なしにはさまざまな業種がやっていけなくなっている。そういう現実が定着し、進行しています。それが技能実習制度なのでしょう。

 この、すでに「走っている制度」をどう改善していくのか。特定技能に移行することで何をどう解決していくのか。外国人と働く現場にはどういった工夫が必要なのか。わたしたちの認識はどう変えていくのがよいのか。技能実習制度という「国際交流」の場はさらに注視が必要だと思います。

*2 独立行政法人国際交流基金(The Japan Foundation)は、「総合的に国際文化交流を実施する日本で唯一の専門機関」とホームページに明示されている。
*3 技能実習生は41万972人(令和元年末現在・法務省統計)。同じ木令和元年末現在における、在留外国人の中長期在留者数は262万636人、特別永住者数は31万2501人で、これらを合わせた在留外国人数は293万3137人となり,前年末(273万1093人)に比べ,20万2044人(7.4%)増加し、過去最高となっている。(出入国在留管理庁「令和元年末現在における在留外国人数について」より)