カタコト英語より、「やさしい日本語」での意思疎通

 外国人との交流には“言語の壁”が否応なく存在する。在留外国人の多い神奈川県横浜市の調査*4 などでも、外国人が回答した「困っていること・心配なこと」として、「日本語の不自由さ」が1位になっている。「話す・聞く」はある程度出来ても、「読む・書く」の習得に苦労している外国人は多く、現在、法務省・出入国管理庁といった行政機関は「やさしい日本語」*5 の普及に努めているが……

*4 令和元年度 横浜市外国人意識調査 より
*5 文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン

玉腰 国が進める「やさしい日本語」とはちょっと違いますが、わたしは以前、日本語学校の非常勤講師をしていたことがあり、初級を担当することが多かったため、教室では初学者でもわかる“やさしい日本語”を話していました。

 仮定の「〜すると」「〜たら」「〜ならば」などは一切省き、時制も現在だけにして、「〜して」のように「て」で文節をつなぐこともしない、超シンプルな日本語です。

 休み時間になると、そういう先生たちがそのままのモードで職員室に集まってきて、「わたし、おなか、すきます。コンビニ、行きます。あなたも行きます。いいですか?」みたいな、へんな日本語が真顔で飛び交っていて噴き出したことがありました。その、異様にシンプルな日本語で話す技能は、現在のわたしの仕事の中でも生きています。

 いま、日本に40万人以上いる技能実習生たちは、日本語レベルでいえば、N5からN1という5段階のステップ*6 のうち、最初のN5やN4レベルの人たちです。ですが、難しい語彙や構文を使わずに話すと意外に通じて楽しいものです。

 もし、自分が英語を多少話せるからといって、こちらから英語で話してしまうと、(相手の外国人が)誰に対しても英語で話せばいいんだと思ってややこしくなることがありますし、せっかく努力して学習してきた日本語を要らないものと思わせてもいけません。

 そもそも、外国人の人手を必要としている日本の職場は、「学校英語」で嫌な思いをさせられてきた方たちが多いと思っておいたほうがいいような気がします。そういう職場でカタコトの英語をはびこらせるくらいなら、いっそ、異様にシンプルでへんな日本語のほうが共通言語としてふさわしいでしょう。

 それに、最優先すべきは職場での安全です。(建設現場などで)危険が迫ったときにとっさに通じるよう日本語を耳に定着させることが安全のために重要です。その意味でいえば、東北地方のわたしの職場周りでは、現場で使われている方言をまず聞いて分かるようにするほうが、教科書の標準語よりも優先だと思います。

 もちろん、込み入った内容になったとき、たとえば雇用条件の変更や健康診断など、あるいは、悩みを聞く場面のときは、英語や、実習生の母語を使う必要があります。そういうときは監理団体職員に頼めばよいでしょう。それ以外の、日常的な場面では、どんどん「やさしい日本語」で話しかけるのが良いと、わたしは思います。

*6 日本語能力試験 N1からN5:認定の目安 「日本語能力試験にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあります。いちばんやさしいレベルがN5で、いちばんむずかしいレベルがN1です」(日本語能力試験ホームページより)