町中のちょっとした人気者になった技能実習生たち
さまざまな属性の人たちがそれぞれの価値観や経験値の中で暮らすダイバーシティ社会。「多文化共生社会を目指す」と言葉で謳(うた)うのはたやすいが、「外国人は…」「地方の町は…」「日本の会社組織は…」といったアンコンシャスバイアスが相互理解を阻み、共生のハードルを上げてしまう傾向もある。技能実習生と会社組織、日本人と外国人という関係性において「共に生きる成功例」を玉腰さんに聞く。
玉腰 いろいろありますが、たとえばひとつ、岩手県花巻市の東和町にある工場のケースが良い例だと思います。
その会社は、社長と従業員の計6人の小さな鉄工所でした。ある日突然、主力のベテラン工員ふたりが辞表を出したのです。ちょうど、先代社長が亡くなったばかりで、奥様が会社を引き継がれていました。しかし、新しい人手を入れられるめどが立たず、いったんは廃業を考えていました。
そこに、「外国人実習生を受け入れてはどうか?」という話が持ちかけられ、意を決してフィリピンまで採用面接に行き、フィリピン人ふたりを招き入れることにしたのです。
それが、実習生のOさんとJさんでした。
ふたりとも男性で、Oさんは31歳で、「稼いで、おばあちゃんのために家を建ててあげたい」という理由で日本に来ました。Jさんは28歳で、幼い娘さんが母国にふたりいて、その教育費を稼ぎたくて日本に来ました。
働いてみると、ふたりともまじめな性格で、実直な仕事ぶりから、残ったふたりの日本人工員ともすぐに良い関係を築きました。社長(先代社長の奥様)一家も何かと生活の心配りをしたことから、会社には最初から家族的な関係ができていきました。
OさんもJさんも口数の少ないおとなしいタイプです。ですが、とにかく愛想がよい。朝夕の挨拶もきちんとする。会社内だけでなく、出入りしている取引先の人たちにも絶えず笑顔で接する。小さな町なので地域のスーパーで仕事のつきあいの人たちともよく顔を合わせるのですが、必ず覚えていて、彼らのほうから笑顔で挨拶する。冬は雪の多い地域ですが、隣に住むひとり暮らしの高齢の女性の分まで雪かきをする。
そもそも、ふたりが勤める会社の先代社長の人望が厚かったこともあり、「あそこの会社に外国人がふたり来たんだってね」と、町の人の注目を集めていました。そこに彼らの良い評判が広まり、町の人が何かと世話を焼くようになりました。
実習生は職場と宿舎の往復だけになりがちなのですが、休日に海まで釣りに連れて行ってくれる人が出てくる。冬に寒くなると、「これ、あの子たちに」と古着が集まる。ときどき、近所のカラオケ店は、彼らにひとり1000円で飲み放題・歌い放題をさせてくれる。技能実習生には1年目と3年目に試験が課されていますが、合格発表の日まで「試験どうだった?」と声をかけてくれる。合格すると、地元の銀行の方たちがお祝いの会まで催してくれる――高齢化し、若年人口が減り、にぎわいをなくしつつあった町で、OさんとJさんはちょっとした人気者になったといっていいかもしれません。
決して派手で社交的な性格ではなく、むしろ、おとなしく実直なふたりなのに、その誠実さが地域に溶け込む要因だったように思えます。