「こうあるべき」を捨てて、思考に振れ幅を持たせるiStock

経営学の大家ヘンリー・ミンツバーグ。『マネジャーの仕事』『戦略サファリ』などのベストセラーでも知られる氏が「これは私にとって12冊目の著書だ。これまで書いた中で一番真剣な本と言えるかもしれない」と述べるのが2月17日に発売となった『これからのマネジャーが大切にすべきこと』である。

本書は「マネジャーは欠点を見て選べ?」「意思決定とは『考えること』ではない」など、42のストーリーで構成されており、遊び心に富んだ表現で、マネジャーの仕事の本質を鋭く説いている。

今回は本書に推薦コメントを寄せたサイボウズの青野慶久氏に、その魅力を伺った。

「こうあるべき」を捨てて、思考に振れ幅を持たせる青野 慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ株式会社 代表取締役社長
1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任。2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。

意見を出しやすい土壌をつくる

――本書は42のストーリーで構成されています。青野さんがこの本で、最も印象に残ったものは何でしょうか。

青野 そうですね、一つだけ選ぶのは難しいので、いくつかピックアップしますね。まず 「3.マネジメントとリーダーシップ。 このストーリーが結構好きでした。よく、マネジメントはしょせんオペレーション的なもので、リーダーシップはもっと崇高なものだという勘違いがあるんです。けれども、そのような認識が誤りだということに、この章ではズバッと切り込んでくれている。

 ミンツバーグが「お高く止まったリーダーシップ」と揶揄していますが、まさに上から偉そうに言っている人が、これぞリーダーだといった顔をしている。けれど、リーダーシップだけでは経営はうまくいかないんです。

 そう思ったのは2006年、社長になって少し経った頃です。当時私は、数値目標を立てて「こっちにいくぞ〜」「みんなやれ〜」といった、ちょっと強引な、お高く止まったリーダーシップを取っていました。そうすると、社員は上から降ってきた指示を実行するだけになるので、モチベーションがあまり上がらないんですよね。

 そんな時、むしろ皆の意見を聞いた方が上手くいくなと実感したんです。この本の「8.戦略は庭の雑草のように育てよ」でも、庭の雑草のように自然に戦略が生まれると書かれていますよね。

――戦略は立案するものではない、と。

青野 そうです。現場から出てくるアイデアを拾っていると、「こんなことをやったら面白くない?」といったものが、だんだん出てくる。サイボウズの人事制度なんて、まさにそうでしたね。

――社員一人ひとりが、希望する働き方を実現できる100人100通りの人事制度ですね。

青野 はい。方針は私や副社長の山田が出したかもしれませんが、具体的な中身に関しては、私が考えたものはないですね。「残業したくないです」「育休が短すぎます」「副業させて」……びっくりするようなものがたくさん出てきたんです。それを「え〜」と言いながらも、なんとかできるようにマネジメントして、気が付いたらみんなが楽しく働ける会社にどんどん変わっていった。

 オープンに皆が意見を出せる土壌を作ることが、リーダーの仕事ですよね。いまの私の仕事はほとんどそれだけです。