条件を満たす完璧な人は存在しない
――他のストーリーはいかがでしょう。
青野 「4.マネジャーは欠点を見て選べ?」も大好きです。このストーリーの中に、成功するマネジャーが備えている資質というリストがあって。ミンツバーグがそのリストに「そんなやついるかよ!」というツッコミを入れている(笑)。
マネジャーは何でもできないといけない、リストにあるような資質を全部そろえないといけないと思ってしまいがちですが、そんな人はいない。すべての条件を満たす人なんて、日本で1人か2人いるかどうか。だから、条件を満たす人を探す必要はないんです。
副社長の山田が書いた『最軽量のマネジメント(サイボウズ式ブックス)』(ライツ社)という本があるんですが、この本でもマネジャーはそんなに万能じゃないから、基本諦めろと書いてあります(笑)ミンツバーグの考え方と通ずるところがありました。
ミンツバーグもマネジャーは基本欠点があることを前提にした方がいい。そのうえで、みんなで補完した方がよいという考え方ですよね。多くの人がマネジャーに完璧を求めがちですが、そこにきちんと異を唱えてくれる点が面白かったです。
加えて、「40.『もっと多く』より『もっとよく』を」も、私はぜひ多くの人に読んでほしいストーリーかなと思います。もっと多くは本当に際限がないんですよね。けれども、地球はこれ以上大きくならないし、資源も無限ではない。もっと多くの先は限界しかないんです。もっと多くの発想で進んでしまうと、結局大きくすることが目的になってしまう。ミンツバーグも言っているように、「よい」というとてもシンプルな価値を無視し始めると思うんです。
長野県の伊那市に伊那食品工業という素敵な会社があるんです。そこで最高顧問を務める塚越寛さんとお話をする機会があった時に、まさにこの言葉が出ました。私が「もっともっとになってしまう」という話をした時に、「もっとよくを目指せばいいんじゃないですか」と言われたんです。「もっとお客さんに喜んでもらうには」「もっと私たちも楽しく働くには」……もっとよくは、いくらでも目指せて、改善に限界がない。まさに長期的に幸せになれる言葉なんです。「もっと多くよりもっとよく」。言葉を少し置き換えるだけで、実は発想がずいぶん変わります。
同じように、「ベストよりグッド」という言葉も「41.ベストよりグッドを目指せ」で出てきていましたが、これもまさにそうですよね。結局ベストは比較競争の言葉なので、ベストになるためには相手を叩き潰すという発想が出てきてしまう。本当に上手くいった人は、ベストではなくグッドを追求して、結果的にベストと評価される。ミンツバーグに共感した部分ですね。
――けれども、経営をされていると、利益の追求など「もっと多く」という方に意識が傾いてしまいそうな気がします。株主からのプレッシャーもあるかもしれません。そのような状況の中、よりよくを目指すのは、経営者という青野さんのお立場では難しいことのようにも思うのですが。
青野 いえいえ、全然そんなことはありません。簡単ですよ。
「もっと多く」と言う株主に、「ごめんなさい」と言えばいいんで。「すみません、私たちはもっと多くを目指さないんです、よいグループウェアを作りたいだけです」と。株主というのは、世界にたった1人の存在ではないんです。株主はある意味、世の中に何億人も存在するわけですよね。だから自分たちに共感してくれる株主が応援してくれれば、それでいいわけです。「私たちはもっとよくを目指すんです」と公言すれば、もっとよくを求める株主が集まってくるんです。