東北新社に勤務する菅義偉首相の息子による総務省幹部への接待問題で、一部の野党とメディアや評論家が“安倍政権でのモリカケ問題に並ぶ事件”といろめき立っています。総理の息子がいるがゆえに衛星放送の認可などで東北新社が優遇されて行政が歪められた、という主張ですが、冷静に考えてそれは本当に正しいのでしょうか。(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)
野党の主張には無理があるのでは?
結論から言えば、主に立憲民主党が主張する“総理の息子がいるから東北新社が優遇された”“総理の息子によって行政が歪められた”という言い分には、ちょっと無理があるのではないかと思います。
もちろん、総理の息子にも大きな非があります。彼が高額接待を繰り返した動機について、私は個人的に、総務省の衛星放送業務に影響力を行使するというよりも、“総務省幹部との繋がり”を誇示することで、自身の職場である東北新社で自分の価値を高めたかったのではないかと思っています。
とにかく彼は、公務員倫理規程に違反することを当然知りながら高額の接待を繰り返したという点で、社会人として明らかに非常識であり、強く非難されて然るべきです。
ただ、そもそも衛星放送業務が総務省に認定されるには、事務方の審査のみならず、電波監理審議会での審査を経る必要があります。審議会の委員は御用学者ばかりなので事務方がいくらでもコントロールできるのではと思われるかもしれませんが、実際には委員全員が御用学者というのはあり得ません。
ですので、仮に東北新社が総理の息子を使って衛星放送に関する総務省の意思決定に影響力を行使しようとしても、限界があるのです。
かつ、例えば立憲民主党は、“2018年のCS放送業務の認定は、ハイビジョン対応を主眼としていたのに、認定された12社16番組のうち、東北新社の子会社が手がける囲碁将棋チャンネルだけがハイビジョンでない形で認定された”と問題視しています。
しかし、この18年の認定の際には、ハイビジョン対応で17番組、非ハイビジョン対応で4番組の申請がありました。つまり、非ハイビジョン対応でもそれなりの数の応募がありました。4番組の中で囲碁将棋チャンネルが選ばれたことに“総理の息子”ファクターが影響したのどうかは、精査する必要があるかもしれません。しかし、ハイビジョンでない東北新社の番組が選ばれたことで行政が歪められたと主張するのは、さすがに無理があると思います(https://www.eiseihoso.org/platgl/open/37/37_2_4.pdf)。
かつ、総務省が発表した同省職員と東北新社の会食リストを見ると、認定が行われた18年5月の直近時点で会食が行われたのは、前年の10月の一度だけです。普通、行政を歪めて自社に有利な判断をさせようと思ったら、認定の前にもっと集中的に接待・会食を行っていて然るべきです。
なお、20年12月15日に、東北新社の子会社が運営するスターチャンネルの認定が更新されています。その時は、更新の発表直前の一週間に3回の会食・接待が行われていますが、通常、こうした行政の意思決定は発表の直前ではなく、ある程度前に行われるものであることを考えると、この更新に会食・接待が影響したと主張するのも無理があると思います。
ちなみに、東北新社による会食・接待は贈収賄の疑いもあるという論調をたまに目にしますが、会食の金額とか回数を考えると、これで贈収賄と主張するのは明らかに無理です。