前回のセクハラ同様、パワハラも難しい問題である。部下の成長を願った、愛のある叱責か、それともパワハラなのか――。この線引きは法律の世界でもぼんやりしている。だからといって、パワハラを怖がり、部下を叱責するべき場面で、適切に叱責しなければ部下も会社も成長はしない。いったい、何をもってパワハラとなるのだろうか。どういう叱責や指導が正しく、どこからがパワハラなのか。そのラインを超えないようにするためには、会社と管理職にどのような姿勢や知識が必要なのだろうか。(弁護士・山田長正、協力:弁護士ドットコム)
厳しい指導をした部長に対して
部下はうつ病の診断書を提出
つい先月の朝、筆者の顧問先会社の取締役から、事務所宛てに電話があった。
以前から日常的に厳しい指導を行うことで有名であった管理職の高橋氏(部長、50代男性、仮名)が、部下である一般社員佐藤氏(30代男性、仮名)からいわゆるパワーハラスメント(以下「パワハラ」)を指摘されたというのだ。佐藤氏はうつ病の診断書を提出し、今日から会社を休むことになったとのことであった。
「先生、いったいどのように対応したらいいのでしょうか。部長の高橋が変な指導をしたとも思えないし、うつ病と診断された佐藤に詳しく事情を聞くにしても、かえって病状を悪化させてしまうかもしれない……」
取締役は、ほとほと困ったという声色で、ため息を漏らしていた。無理もない。筆者がこの会社の顧問となり、法務面でのサポートをしてから、会社でこうした問題はほとんどなかったのだ。