目指すものは“社会や企業の成長の糧”となる世界
企業の規模にかかわらず、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で就労者の働き方は大きく変化した。他者への共感と信頼関係をベースに、さまざまな人がそれぞれの働き方を目指していくダイバーシティ社会の中で、ACEの会員企業のみならず、2020年代の職場に求められる姿勢はどのようなものだろうか。
栗原 障がいのある方・ない方、雇用する側・される側ともに「遠慮しているのでは?」と思います。「障がいのことを聞いたら失礼になるのではないか?気分を害してしまうのではないか?」「こうした配慮があると助かるけれど、障がいのある社員は私一人だけだから申し訳ない」「障がいがあるから、この社員にできるのはこの業務だな」「障がいがあるけれど、この配慮があればもっといろいろできるのだけど…」など、お互いに遠慮してきちんとコミュニケーションができていないのでは?と思うことがあります。本来されるべき合理的配慮*10 が互いの遠慮でできなくなっていないでしょうか。互いにコミュニケーションで歩み寄ることがこれからは必要だと思います。
たとえば、発話音声を文字起こしするツールですが、これを利用すると会議の中身を聴覚障がいのある方へ伝えることができます。テレワークのオンライン会議でも活用できます。しかし、会議の参加者が多くなると表示された字幕が誰の発言か分からなくなることもあります。ここで、一工夫。発言者が発言前に自分の名前を言ってから発言してみてはどうでしょうか。こうした配慮があると聴覚障がいの方にも誰の発言か正しく伝わります。この工夫は、それだけにとどまりません。会議終了後に、テキスト化されたデータを利用して、簡単に議事録を作ることができます。そこに発言者の名前があれば、誰の発言かが明確になります。発話音声を文字起こしするツールは、聴覚障がいのない人にもとても役立つものなのです。このように、障がい者のために作られた製品・サービスは、広く多くの人に役立つものとなります。
合理的配慮や相手を思いやるちょっとした工夫や気持ちが、新しいアイデアにつながります。障がいのある方が合理的配慮でさらなる力を発揮すること――そして、それが、社会や企業の成長の糧となる世界をACEは目指しています。
*10 「合理的配慮は、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)が求められるもの。重すぎる負担があるときでも、障害のある人に、なぜ負担が重すぎるのか理由を説明し、別のやり方を提案することも含め、話し合い、理解を得るよう努めることが大切です」(内閣府リーフレット[「合理的配慮」を知っていますか?]より *「障害」表記はママ)
一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム
事務局長 栗原進 Susumu KURIHARA
1992年、日本IBMに入社後、システムズエンジニアとして損保、都銀、信託銀行と金融のお客様のシステムを担当。2000年に社内人材公募で広報部門に異動し、社内広報でイントラネットの再構築に関わり、その後、PRを担当しつつ、日本IBMのソーシャル・メディアの立ち上げや災害時のSNS活用のガイドラインの整備を行う。2018年、日本IBMを退社し、人事関連広報の経験を生かし、LGBTQ社員が自分らしく働ける職場づくりを進めるためのセミナー「work with Pride 2019」の実行委員長を経て、現在、一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアムの事務局長として、企業における障がい者雇用を推進する傍ら、フリーランスとして執筆や各種イベント運営などを担当している。
※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。