火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける、白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』が発刊。発売たちまち1万部超の大重版となっている。
池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

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ダイナマイトの発明

 一八六二年、アルフレッド・ノーベル(一八三三〜一八九六)はスウェーデンに、当時ヨーロッパで話題になっていたニトログリセリンの小さい工場を、父や兄弟たちと一緒につくった。ところが彼の小さい工場でも、大変な爆発事故が起こり、工場が破壊されたのはもちろん、五人の労働者が死亡した。

 そのなかには彼の末の弟もいた。父親もこの事故にショックを受け、まもなく世を去ってしまう。彼は残った兄弟たちと協力して、この爆薬を安全なものにしようと研究に打ち込んだ。

 ノーベルは、紙、パルプ、おがくず、木炭、石炭、レンガの粉などさまざまな材料を試してもうまくいかなかったが、最後にケイソウ土(単細胞藻類であるケイソウの遺骸からなる堆積物)にニトログリセリンをしみ込ませると安定性が増し、扱いやすくなることを発見した。一八六六年のことだ。

 ノーベルが発明した「雷管(爆薬または火薬を爆発させるために、起爆薬その他を管体に詰めたもの)」を使うことで、爆発力を維持することもできた。一年後、彼は爆薬を「ダイナマイト」として市場に出した。

 ノーベルは、ダイナマイト以外にも無煙火薬バリスタイトを開発して、軍用火薬として世界各国に売り込んだ。世界各地に約一五の爆薬工場を経営し、ロシアにおいてはバクー油田を開発して、巨万の富を築いたのだ。

 彼の死後、ノーベル財団(本部・ストックホルム)が設立され、一九〇一年からノーベル賞の授与が始まった。最初は「物理学」「化学」「生理学・医学」「文学」「平和」の五部門でスタートしたが、一九六九年に「経済学」が新設され六部門になった。

 ノーベルは、自分の発明品が戦争に使われるという〝負い目〟を持っていたのでノーベル平和賞などを遺言したと思っている人が多いことだろう。

 ところが、彼の考えは、違ったようだ。