2018年2月の発売以降“小論文のバイブル”としてジワジワ広がり、小論文対策本として異例の78500部を記録している『落とされない小論文』。大学受験、公務員試験、教員採用試験はもちろん、就活のエントリーシート、企業内の昇進試験、補助金などの申請資料など、さまざまな場面で求められる“文章力”が鍛えられる本だ。
著者の今道琢也氏は、文章が苦手な人ほど「具体的に書く」ことができないと言う。そもそも「具体的に書く」という表現が抽象的で、よくわからない。どうすればできるようになるのか、詳しく聞いてみた。(取材・構成/イイダテツヤ)
「本気で考えていない」から抽象的になる
──『落とされない小論文』は、小論文試験を受ける人たちが「こういう失敗をしがち」という項目をランキング形式にして書かれていますよね。
今道琢也(以下、今道):はい。ダメージが大きく、かつ頻出であるミスに絞って、順に克服する方法を書いています。
──その第2位に「具体的な言葉で書けていない」という項目があります。「具体的に書けない」というのは、具体的にどういうことでしょうか?
今道:(笑)。抽象論ばかりで、リアルにイメージできる場面がまったく書かれていないということです。
──今道さんの「ウェブ小論文塾」では、大学受験や公務員試験や教員試験など、あらゆる小論文試験の受験者を指導されていますよね。「具体的に書けない」受験者は、どの試験に多いと感じますか?
今道:大学入試、就職試験などを問わずどの試験でもまんべんなく多いです。昇進試験でも多いですよ。
──昇進試験って、会社で管理職になるための試験ですか? 長く社会人経験を積んだ人たちですよね?
今道:そうです。昇進試験では「管理職になったら、あなたはどういう取り組みをしますか?」というような論文を書かせるケースがよくあるんですね。
そのときに「風通しのいい職場をつくる」とか、「外部スタッフと密なコミュニケーションを取る」「社員も、派遣も、パートも関係なく、すべてのスタッフと信頼関係を築く」というような抽象論を書く人が多いのです。
──たしかに、よく聞く表現です……。
今道:何が「具体的」なのかをお話しする前に、今の表現が「具体的ではない」ということは、多くの人が感じるはずです。「どうやって、それらを実現するか」という部分こそを具体的に語ることが求められているのに、それが書かれていないんです。
「風通しのいい職場をつくる」なら、たとえば「週に一度のミーティングを開催する」とか「○○のようなツールを使って、いつでも意見交換できるようにする」とか「○○を改善して、情報共有をしやすくする」など、具体的な取り組み内容を書かなければ、解答したことにならないはずです。
──私もいろんな人にインタビューをするとき、「もっと具体的に聞かせてください」と感じることは多いです。そういう人たちは、なぜ具体的に書くことができないんでしょうか?
今道:ひとつ言えるのは「そこまで本気で考えていない」ということではないでしょうか。「管理職になったら、どんなことをやりますか?」という問いについて、ぼやっと想像する範囲で満足していて「どうしたら職場の風通しがよくなるか」までを考えていないからだと思います。
1975年大分県生まれ。インターネット上の小論文指導塾「ウェブ小論文塾」代表。京都大学文学部国語学国文学科卒。元NHKアナウンサー。高校時代、独学で小論文の書き方をマスターし、現役時に大阪大学文学部、翌年の再受験で京都大学文学部、慶應義塾大学文学部、就職試験ではNHKの試験を突破(すべて論文試験あり)。NHK在職中に編成局長特賞、放送局長賞などを受賞。2014年に独立し「ウェブ小論文塾」を開校。約2000枚の答案を独自分析し「全試験共通の陥りやすいミス」を発見。
「落とされない小論文の書き方」を確立する。国家公務員試験、地方公務員試験、教員試験、大学・大学院入試、企業内の昇進試験、病院採用試験、マスコミ採用試験にいたるまで、あらゆる分野の小論文を指導し、毎年多数の合格者を輩出。同塾では、過去問題指導に加え、全国の自治体・大学の独自予想問題を作成して指導し、的中事例も多数。「答案提出翌日から3日以内」のスピード返却に加え、丁寧で的確な指導が圧倒的な支持を得ている。『落とされない小論文』が初の著書。
今道:そして、もうひとつ「読む人をイメージできていない」という原因もあると思います。
──どういうことですか?
今道:これは別の例のほうがわかりやすいでしょう。