新刊『感情マネジメント 自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす』では9割のチームがつまづく「感情」をうまく扱う方法を紹介しています。過去2回の連載では、本書にも盛り込んだ失敗ケースを紹介しました(詳細は「部下の悩みにかぶせて過去の自慢話!そんなリーダーは通用しない」「感情を無視した「良かれと思って」がプロジェクトを崩壊させる」「意識高めリーダーの「みんな自分と同じレベル病に」チームは疲弊する」)。今回登場するのは、「リーダーたるもの冷静にあらねば」と過剰に思い込み、感情的なコミュニケーションが欠けてメンバーの信頼を失ったケースです。

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「クールであらねば」症

 経営企画のAさんは、国内の歴史ある大企業で社内横断型プロジェクトのリーダーを任されています。組織風土の改革とイノベーション創出を目指し、部門や職種の枠を超えて社員同士の交流や協業を促進するプロジェクトです。チームはさまざまな部門から自ら手を挙げた優秀な若手メンバーで構成されています。

 普段勤務している拠点がバラバラであること、またリモートワークが定着したことから、日常の議論や相談はオンラインミーティングとメールを中心に進めています。

 今日も、リーダーのAさんとコアメンバーのBさん、Cさん、Dさんが集まって、オンラインミーティングを開いていました。

Aさん「プランはほぼ固まったね。来週から各部門長への伝達を開始しよう」

Bさん「いよいよ動きだしますね」

Aさん「きっと、あちこちから反発は出てくるだろうね」

Cさん「僕、○○部の人と話すのは初めてです」

Aさん「○○部の部長は神経質で重箱の隅をつついてくるタイプだから、順序立てて説明しないと納得してもらえないよ。話の持っていき方に気をつけてね」

Dさん「僕が担当する△△部は繁忙期に入るので、来月のイベントへの参加に難色を示されるかもしれません……」

Aさん「そこはビシッと言わなくちゃいけないよ。来月には足並みそろえてスタートできるように、みんなも早めに動いてね」

Dさん「……わかりました」

Aさん「じゃ、今日はここまでにしよう。何かあったらメールで連絡して」

 そこで接続はプツンと切れました。3人のメンバーはどうもスッキリしない気分でした。

「なんか素っ気ないな。全然楽しくないな……」

 プロジェクトが立ち上がり、部門を問わずに有志メンバーの募集が告知されたとき、Bさん、Cさん、Dさんはワクワクしながら手を挙げました。「この会社を変えられるんじゃないか」「もっと楽しく働けるんじゃないか」と、意気揚々とプロジェクトに参加したのです。

 ところが、リーダーのAさんは互いの自己紹介もそこそこに、淡々とプロジェクトを進めていきます。そして必ずネガティブな指摘でミーティングが締めくくられます。

「反対される」「~してもらえない」「注意が必要だ」「~しなくてはいけない」……。

 そんな言葉を繰り返し聞くうちに、Bさん、Cさん、Dさんは、最初に抱いた熱意が徐々に冷めていきました。

 Aさんはネガティブな言葉を連発するだけでなく、いつも能面のように無表情です。そのため、メンバーはAさんが何を考えているのかつかみかねていました。そして「Aさんは、このプロジェクトに乗り気ではなく、プロジェクトも発展性がないんじゃないか」といった疑念を抱くようになっていたのです。

 コロナ禍以前であれば、ミーティング後に廊下を歩きながら、あるいはコーヒーを飲みながら、雑談して思いを共有することもできたはずです。しかし、オンラインミーティングが中心になると、連絡事項を確認したらすぐに接続が切れてしまいます。雑談が抜け落ちたことでチームの一体感が薄れ、メンバーは孤独感を抱いていました。

 プロジェクトが実行段階に入ると、メンバーは手分けして各部門長にコンタクトをとり、この取り組みについて説明しました。しかしメンバーが消極的な状態で、説明を受ける側が前のめりになるわけもなく、なかなか賛同を得ることができません。

 もし、Aさんが次のようなポジティブな言葉でメンバーに語りかけていたら違っていたかもしれません。

「いよいよ、みんなで一生懸命考えてきたことが形になるね」

「X部長は細かく詰めてくるかもしれないけれど、視点が鋭いから学べることも多いはずだよ。行き詰まったら一緒に話をするから、安心して挑戦してもらいたい」

「会社をより良くしたいという思いを伝えれば、きっと理解してもらえるよ」

 前向きな言葉をかけていれば、もともとやる気のあったメンバーがやる気をなくすことはなく、さらに熱心にプロジェクトに参加していたのかもしれません。

 Aさん自身は、メンバーが疑っていたように乗り気でないわけではありませんでした。むしろメンバーの誰よりもこのプロジェクトに情熱を持って向き合っていたのです。

 しかしAさんには、「自分の感情」にフタをする習慣が身についていました。

 本来、Aさんは感情豊かな人です。ただ、学生時代の部活でキャプテンを務めていた頃、怒りをストレートに表現しすぎて部員の多くが退部したという苦い過去がありました。その教訓から、社会人になっても気持ちを見せず冷静に対応することを心がけていました。ロジカルシンキングやクリティカルシンキングを学び、論理的かつ少々批判的な考え方をするようになったのです。

 Aさんは「ネガティブな感情」を抑え込み、常に冷静なビジネスパーソンという理想像を実現しました。しかし同時に、「楽しい」「ワクワクする」といった「ポジティブな感情」まで抑え込むようになったのです。特に今回は、「失敗できない」「バカにされたくない」というプレッシャーから、より強く危機感や不安を封じ込め、プロジェクトで失敗しないことを優先させていました。それが周囲から見ると、冷めた印象につながったのです。

 Aさんに必要なことは、まず自分の「感情」を知り、同じようにメンバーの「感情」を把握し、信頼関係をつくることでした。「感情」への配慮が欠けたことで、Aさんの冷静さは「冷たさ」だけが伝わり、チームが機能しなくなったのです。

 Aさんは、どうすればよかったのでしょうか。