クックパッドコーポレートブランディング部本部長で、『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』著者の小竹貴子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について「40代の今出会えてよかった本」と熱くその魅力を語っています。
今回、この二人の対談が実現。ともに起業、スタートアップにかかわった経験から「バリバリ働いてきた人が限界を超えないためにどう休めばいいか」について語ってもらいました。(取材・構成/杉本透子)

会社を立ち上げるのは得意、マネジメントは苦手

借金玉 小竹さんはクックパッド以外にも会社の立ち上げを経験されているんですか?

小竹貴子(以下、小竹) 40代になってアクセル全開で働くことに限界を感じ、クックパッドを離れてフリーランスだった期間があるんです。そのときに、いくつかの会社のスタートアップをお手伝いさせていただきました。限界が来て会社を辞めたはずなのに、フリーになっても結局同じようなことをやっていましたね。

 クックパッドから「戻ってこないか」とお話をもらい、それなら「チームで働く」、「誰かに任せる」という苦手なことにもう一度チャレンジしてみようと戻りました。実は1度目に退職したときはマネジメントがうまくいかず、チームのメンバーが立て続けに何人も辞めてしまったんです。

借金玉 人に任せるって怖いですよね。自分がミスしたら頭を下げればいいとか想定ができますが、部下のミスは想像が及ばないことが起きる。僕も部下が何人辞めていったことか。マネジメントに関してはちょっとしたトラウマです。

 ADHDの人間が地力を使って会社を立ちげて、従業員が増えたらマネジメントできなくなるって、悲しいですが「あるある」だと思います。「会社立ち上げ」適性があるけれど、「部下に任せる」のが向いていない人ってやはり多い。僕もおそらくそうなんだと思います。

小竹 借金玉さんは、どんな点が失敗だったと振り返っていらっしゃいますか?

借金玉 僕は、自分ができることを部下ができなかったときに「なんでできないの?どこで詰まってる?」「いつまでにできる? 謝罪とかはいいから期日切って」「わかるように説明して」とカチカチに詰めてしまうんですよ。今思うと、ひどい上司だと思います。「大丈夫?」から入る言葉のクッションすら当時の僕には無かった。それで部下もやられていってしまいましたね。仕事は人間がやっていてそこには感情があるということが、わかっていなかった気がします。

 結果、どんどん「自分でやらなきゃダメだ」「自分でやった方が早い」みたいな思考に陥って仕事を振ることが出来なくなっていきましたね。

小竹貴子(こたけ・たかこ)
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。

究極ハック:自分よりすごい人を採用する

小竹 わかります……。私の場合、2回目にクックパッドに入社したときは、失敗の経験から自分を大きく変えなきゃいけないなと思ったんです。そこで気づいたのが、「完璧なリーダー像」に縛られていたことでした。自分が頑張ればなんとかなるという以前のイメージを捨てて、チームメンバーに頼る仕事のやり方に変えなきゃいけないなと。

 ひとつ決めたのは仲間の採用で「自分より圧倒的にすごい人を採ること」でした。自分の上司を採るような気持ちで採用をしてからは、辞める人もなく、うまくいっている感じです。

借金玉 クックパッドの初期メンバーというと非常に華々しい経歴ですけれども、ご苦労があったのですね。

「自分より優秀な人を雇う」はマネジメントの究極的なハックかもしれません。優秀な人は自分で走れるから、給料が高くても結果的には会社にとって安く済むという。「リーダーより優秀な人」として雇われた自覚がある人は、リーダーが失敗したときにわざわざ揚げ足をとったりもしないですしね。

 創業の時期は失敗しないことよりバリューを出すことの方が大事だと思うんですけど、失敗すると叱られる空気があると誰も前に出られなくなります。僕も前の会社のときに自分よりはるかに優秀な部下がいましたが、彼がいたときは本当にラクでした。「あなたは僕より優秀だからそこにいるんです、気後れせずどんどん前に出てください」と言える部下がいると、組織全体の空気が前向きになりますよね。

小竹「部下が優秀だと追い抜かれる心配はないか」と聞かれたこともありますが、そこはあまり考えたことがないんですよね。

借金玉 おそらく小竹さんの仕事はユニットのフルパワーで目の前の敵を何とかして倒せというお仕事なので、そんなことは思考の外なのでしょうね。優秀な人を入れた方がユニットが強くなる、という単純なことで。逆に言えば生産性が下がってもいい仕事、成果に追われず組織内の評価だけを保てばいい仕事なら、部下は自分より優秀じゃないほうがいいのかもしれません(笑)。小竹さんはそういう仕事にやりがいは感じられないと思いますけどね。

借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』