チームを円滑に回したい。どんなリーダーもそう思っているのに、なぜかチームの空気が悪い……。その根本的な原因は、恐らく「感情」にあります。新刊『感情マネジメント 自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす』では9割のチームがつまづく「感情」をうまく扱う方法を紹介しています。なぜ感情をおろそかにするとチームが空中分解するのか。今回はその分かりやすい事例を紹介しましょう。

部下の悩みにかぶせて過去の自慢話! そんなリーダーは通用しないPhoto: AdobeStock

 リーダーシップやマネジメントスキルの研修は受けた。

 それなのに、チームがうまく回らない。メンバーが思うように動かない――。

 リーダーやマネジャー、人事部門の方々から、こんな悩みをよく打ち明けられます。

 私は人材開発や組織開発コンサルティングの一環として、管理職へのコーチングを行っており、普段のマネジメントについても頻繁に相談を受けます。

 またクライアント企業に入って組織改革プロジェクトチームと協業しているとき、リーダーの行動を直接目にする機会もあります。

 その中で、「うまくいかない原因はこれか!」という要素を発見します。

 パターンはさまざまですが、ほとんどのケースで共通しているのは、うまくいかないチームはほとんど「感情」の問題でつまずいているということです。

 マネジメントのノウハウやメソッドを学び、実践していても、リーダーが「感情」に無頓着なせいでチームがまとまらずにいる──そんな場面を数多く見てきました。

 リーダー本人の「感情」とメンバーの「感情」。これらに丁寧に向き合えば、マネジメントは必ずプラスの成果をもたらします。

 とはいえ、突然「感情」の問題だと言われても、戸惑う人のほうが多いはずです。

 日本社会ではこれまで、仕事の場面に「感情」を持ち込むことはタブーとされてきました。怒りや喜びを露わにするよりも、自分の気持ちを押し殺して冷静な判断を下すことが美徳とされてきたのです。

 確かに感情的に振る舞うことはあまり良いことではありません。一方で、「自分がどう感じたのか」「仲間がどんな感情でいるのか」という点に配慮しなかったばかりに起こった悲劇を、私はこれまで数多く見てきました。

 そこでまず、リーダー本人の「感情」とチームメンバーの「感情」をおろそかにした結果、チーム全体が機能不全に陥った象徴的なケースを紹介したいと思います。

 チームリーダーを「Aさん」、メンバーの代表を「Bさん」と設定しました(紹介するストーリーは、実際にあった複数のエピソードに基づいたフィクションです)。

事例1「すぐに解決してあげたい」症

 営業チームを率いるリーダーのAさんは、プレイングマネジャー。本人もクライアント企業を担当しながら、4人のメンバーのマネジメントを手がけています。

 Aさんが所属する営業部では、突然チーム制が敷かれ、成績優秀だったAさんがリーダーに抜擢されました。マネジメント研修などは特に受けていませんが、Aさんは「結果を出せばメンバーもうれしいはず。自分もかつてはビシビシと育てられたから、同じように指導すればいい」と考えていました。

 最近では人事部の方針で1on1制度が導入されました。リーダーは週1回30分間、メンバーとの1on1面談を実施しなければなりません。

「仕事の進捗を確認したらその後は何を話せばいいんだろうか」。そんな迷いを抱きつつ、メンバーBさんとの1on1に臨んだAさん。まずは今期の目標達成状況の確認からスタートしました。

Aさん「現時点で達成率40%か。ペースは悪くないけれど、来月は連休が多いから前倒しで進めたほうがいいな。先週の顧客訪問数はどれくらいだった?」

Bさん「14件です。企画書を作るのに時間がかかってしまって」

Aさん「じゃあ今週は20件を目標にしようか」

Bさん「はい、頑張ります」

Aさん「同行が必要なお客さまがいれば、いつでも声をかけてくれていいから」

Bさん「これから決裁者のアポがとれそうなものがありますので、お願いします」

 いくつかのクライアントの状況を確認した後、Aさんはちらりと時計を見ました。

 面談開始から15分。「確認しておきたいことは聞けたし、問題もなさそうだ」「自分のお客さまの資料を仕上げないといけないから、早めに切り上げたいな」。

 そう思いましたが、人事部からは必ず30分間の1on1を行うように言われています。「あと15分、何を話そうか……そういえば、メンバーの悩みや課題を聞くように言われていたな」。そう考え、AさんはBさんに尋ねました。

Aさん「最近、何か困っていることとか悩んでいることはある?」

Bさんはしばらくためらった後、こう切り出しました。