さまざまな事業に応用できる
プロダクトマネジメントの考え方

 さて、プロダクトマネジメントとは何かを考える前に、プロダクトとは何かについて確認しておきたいと思います。というのも、今日ではプロダクトと言ったとき、それがIT系の製品やサービスだけを指すものではなくなってきているからです。

 パソコンやスマートフォンなどの製品やアプリケーション、Eコマースなどのサービス、「Twitter」や「Facebook」といったSNSなどを「プロダクト」と呼んでも、誰もが違和感がないと思います。つまり、世の中で提供されている多くのものがプロダクトに該当するのです。例えば、ダイヤモンド社が発行する書籍や雑誌などもプロダクトと言えます。

 取引される市場があって、ある特定の人や組織に、ある「価値」を届けることができるものは、すべてプロダクトと考えられます。ここでいう価値とはお金以外のものでも構いません。プロダクトとは、ユーザーがどういう人でどんな課題を抱えているか、解決策として何が望ましいか検討し、最終形として誰かのために価値提供できるものに他ならないのです。逆説的に「プロダクトマネジメントスキルが活用できるものがプロダクト」という定義が成り立つかもしれません。

 ところで、我々がプロダクトと言うときには、つい解決策の部分だけを見がちです。しかし実は、解決策に至るまでの「誰の」「何の」課題を解こうとしているのか、それによって「どういう世界を実現」しようとしているのかが、プロダクトにとっては重要です。

プロダクトの4階層(書籍『プロダクトマネジメントのすべて』より)
プロダクトの4階層(書籍『プロダクトマネジメントのすべて』より)
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 先日、私が共著者として上梓した『プロダクトマネジメントのすべて』でも、この点を「Core」「Why」「What」「How」の4階層で説明しています。実現したい世界観を核(Core)として、「誰」を「どんな状態にしたいか」を課題(Why)に据え、それをどんなユーザー体験とビジネスモデル(What)で解決するか検討し、どういう機能(How)で実現するか。各階層で仮説と検証を進めていくことがプロダクトをつくること、そのものにあたります。プロダクトにはコアとなるビジョンが必要です。完成品の機能だけを見ていては、そのプロダクトの本質は見えてきません。

 書籍などの出版物でも、どういう読者の何を解決する本をつくるか、企画や検討が行われるはずです。私の前著作『ソフトウェア・ファースト』でも、「『DXをしろ』と上司から言われているが何をしたらいいか分からない」「経営者でグーグルやアマゾンに脅威を感じているが、何から手を付けるべきか見当が付かない」という人たちを対象に、「今、何をすればいいのか具体的なアドバイスで武器を授けたい」というCoreとWhyを用意してから執筆に臨みました。

 またイベントなど、形を持たないものの企画でも、プロダクトマネジメントの考え方は有効です。私はイベント登壇を依頼されると「誰が来るか」「その人たちは何を私の講演に期待しているか」「講演でその人たちにどんな姿になってほしいか」を検討して登壇を決めています。イベント主催者の中にはしばしば、こうした検討をおろそかにしている人もいますが、本来は一つひとつのセッションの積み重ねでイベント全体をどのような“プロダクト”にするのか、設計しなくてはなりません。

 このように、世の中の多くのことはプロダクトととらえることができ、プロダクトマネジメントの手法が生かせます。日本にプロダクトマネジメントの考え方が普及すれば、世の中はもっと良くなるはずだと私は考えています。