技術者によるHowの細部へのこだわりは、愛の押しつけになる可能性があります。プロダクトでは、How(機能)ではなく、Issue(解決したい問題)、つまりどんなユーザーに何を実現するかを愛すべきなのです。そう考えてみると私自身は、プロダクトに関わっていたときにビジョンへの思い入れが強く、プロダクトが実現しようとする世界に惹かれる傾向がありました。プロダクトマネジャー、およびプロダクトづくりに携わる人は、実現したい世界、課題も含め、ユーザーを他人と見るのではなく、自分事として進めていくのがよいのではないかと思います。
プロダクトマネジメントには
リーダーシップとチームの信頼が必要
事業環境の変化が激しい現代では、初めから何が正解か分かっていることは、まずありません。何が正しいかは仮説検証の中で分かっていくもの。だとすれば、誰かがリーダーシップを発揮してリスクを取り、舵を切る必要があります。
以前、「大企業で成果を上げてきた人ほど、新規事業開発で失敗する理由」という記事でも指摘したことですが、日本の組織ではリスクを取ってアクセルを踏むことはせず、ブレーキを踏む決裁者の方が多い状態です。合議制だと、失敗はしないかもしれませんが、成功することもありません。
リーダーシップとは、独断や独善で決めることではありません。いろいろな人の意見を聞いた上で判断を下すことです。そしてリーダーが決断したことには、チームのメンバーが全員で協力して成功させなければなりません。
これは登山チームが「未登頂の山に登る」というビジョンの下、天候が悪化した場合にルートを再検討することにも似ています。リーダーは気象や医療の専門家、あるいはチーム内のメンバーにも意見を聞きますが、最終的に山を下りることも含め、どのルートを採用するかを決断するのはリーダーの仕事です。そして、チームのメンバーはリーダーが決めたことに対して、全員で努力しなければ、生還や登頂などの目的を達することはできません。
逆に言えば、プロダクトマネジャーは自身の判断に対してメンバーから支持を得るためには、プロダクトオーナーとしての責任を負い、プロダクトに関わるチームのリーダーとして、日頃からメンバーから信頼されるような存在でなければなりません。いざというとき「あなたの判断を信頼して任せる」と言われるような気心の知れた関係を構築することで、チームでビジョンの実現を目指すのです。
プロダクトマネジメントにおいては、プロダクトマネジャーという専門職による強いリーダーシップが必要です。同時にプロダクトづくりは、1人だけでは達成できないチームスポーツでもあります。1人だけスター選手がいたとしても、プロダクトの成功は見込めません。ですからプロダクトマネジャーは、日頃からメンバーの信頼を勝ち得ていなければなりません。そのためにはメンバーのビジョンへの共感も必要で、普段からのコミュニケーションも大切です。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)