やっぱり現場が面白い!
飲食店が写真映えより大切にすべきこと
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ、三城(現三城HD)、ワールド、卑弥呼などがある。2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員として請け負う。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行う。著書に、『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』『経営トップの仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。
稲田 社名は伏せますが、ある経営者がショッピングセンターからすごく要請があったときに、「ええか、経営っていうのは面をとりにいかなあかんときがあるんや」と、周りにおっしゃっていました。同じようなことを口にされた経営者の方は、何人も知っていますが、ほぼ100%急拡大のあとにえらいことになっているのです。言うなればですが、組織の、広い意味でのマーケティングを行い、かつ考えながらPDCAを廻す力が、規模と展開のスピードに追い付かなくなる、とでも言いますか。
宗次 急ぎすぎてね。
稲田 そうです。ココイチさんは、第1号店のオープンから1000店舗達成までの道のりに26年間かけたそうですが、どのあたりから本格的に大きく展開していこうと思われたのですか。
宗次 77号店で東京に進出したときですね。「もうどこへ出しても大丈夫。東京に出店したからには、ココイチは積極的に全国展開するんだっていうことで、取材にも応じよう」と。
稲田 それまでは、取材も断られていたのですね。
宗次 「こんな良い商売、真似をされたら大変だ」と、そういう思いはありました。フランチャイズもしやすいし。これを資本力のあるところに真似されたら、ひとたまりもないぞと。でも、東京へ出す以上は、もう、そんなこと言っちゃいられないから。
稲田 その、先を読まれた上での取材を拒否するという判断だったわけですね。現実には、事業がブレークした時には嬉しくなり、大なり小なり客観的な視座を失い舞い上がってしまう方も多いものです。そうなると、他人の意見には耳を傾けてくれなくなることもあります。また、宗次さんは、現場をものすごく見られていますよね。
宗次 もう大好きですから。
稲田 現場を見て、おそらく組織についてもよく見られていたのでしょうね。
宗次 いや、そういう能力はないから。
稲田 いやいや……。
宗次 「良い店さえつくり上げていけば、全てうまく行く」と、私は思っていました。経理とか、情報処理だとかも、ほとんど担当役員に任せっぱなしで、私は報告を受けるだけ。報告を受けてもチンプンカンプンで。もう本当に店です、ほとんどが。
稲田 お店にもよく足を運ばれていたんですよね。
宗次 1日にそれこそ、5~6食は食べていましたね。ココイチの各店舗を巡回して、ビーフの小盛200gをカウンターに座ってですね。近頃は「映える」と言って、写真の見た目で競うお店も多いですけど、それよりもトータルですから。QSC(クオリティー、サービス、クレンリネス)です。シンプルで普通でいいから、そこに心を込めて、きれいなお店で、笑顔で。それで何割も増すわけですから、おいしさは。
稲田 お店では、お客様の姿も見られていた訳ですよね。
宗次 たぶん創業者はね、現場がやっぱりおもしろいです。お客様が満足そうにね、召し上がって帰られる。その背中に「ありがとうございました!」っていうと、反応がこちらに伝わってくる。また、「あのお客様は何か不満そうだな。きっとお待たせしているんだな」って思ったときは、すぐに「何番さんオーダーまだですか?」って、そのお客様に代わって言ってあげる。お客様は、「自分たちのオーダーだな。オーダーを確認してくれたな」と、わかりますからね。
稲田 お客様の目線から現場を見る、ということですね。
宗次 些細なことの連続なんだけれども、おもしろいです。健全にやっていたら、そうそうクレームなんてあるわけでもないし。やっぱり感謝の笑顔っていうのは、店の雰囲気が良くなります。ココイチで食事するのは楽しいことだって思っていただけると、余計おいしくなりますしね。今度誰かを連れてこようってね。
(第3回につづく)
→第1回 心の底から頭を下げて「ありがとうございました」を言い続けるのが経営トップの仕事
(文・北野啓太郎、撮影・石郷友仁)