時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売されました。好評につき発売6日で大増刷が決定! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーこちらからどうぞ。

経営レベルでの<br />「戦略のPDCA」を廻すために、<br />日本企業に必要なものとは?Photo: Adobe Stock

「戦略」の策定と実践も、日本企業に合う進め方が必要

 日本企業は飛躍のための改革ができないのかと言えば、そうではありません。

 例えば、外部のコンサルティング会社に策定してもらった戦略がいま一つ響かないことはよくあります。理由はいくつもありますがその一つとして、その会社の事業について白紙状態のコンサルタントが戦略策定の際に最初に立てる仮説は、データの基本分析に加えて、社内のヒヤリングから作られる点にあります。

 彼らはヒヤリングで情報を取り、基本分析を行ってどこに課題があるのかを探っていきます。

 しかし、インタビューされる側がうまく言語化して説明できていない場合、またコンサルタント側がマネジメント経験や事業観に乏しい場合には、真の押さえどころが見抜けていないケースが出てきます。改革のテコとなる重要な部分を抽象的な表現でまとめてしまっているケースや、肝心の実践の際の打ち手の難易度評価が甘いケースも見受けられます。

 これは策定の過程で、先ほどのように「お手並み拝見」とばかりにトップを含めて企業側の関与が薄くなることがあることに加えて、コンサルタント側もコンサルティング会社内部での、立案した「戦略」についての評価を得ようと意識するあまり、企業側が求める以上にクリエイティブさやユニークさを追求する場合があるからです。

「これでは、クライアント・インタレスト・ファースト(顧客第一)ではなく、ディレクターズ・インタレスト・ファースト(上司の評価第一)じゃないか」

 コンサルタント自身が自虐的に、こうこぼす例もないわけではありません。

 もし、これが米国企業のトップの場合であれば、高い金をかけて策定させる戦略は、自分にとって有用なものでなければなりませんから、コンサルティング会社に好き勝手に策定させるなど言語道断であり、自社や自身が関与を怠ることなどありえません。

 修羅場の問題解決の場数も多く、事業観があり、組織の動きをしっかりとイメージできているコンサルタントが担当すれば良いのですが、現実にはエリート然としたコンサルタントが多く、そういう理想的な担当者に当たるかどうかは、運を天に任せるような話です。

 企業に納品される「戦略」という名の仮説を、実践を通して検証し、その結果を見ながら惜しげもなく自身の判断でどんどん修正する、つまり、実践におけるPDCAを自ら廻すスタンスが必要になります。さもなければ、腹落ちのないままに事業のハンドル操作を固定しているに等しい運転になり、かえって危険な状態にもなりかねません。

 こうして考えると、「戦略」の策定の仕方と実践時の扱いにも、日本企業に合う進め方が必要であることに気が付きます。