近くて遠い、中国との距離感
まず考えられる要因のひとつは、中国だ。
2021年4月に開催された上海モーターショーでひとつの“事件”が起きた。テスラブースで展示中のモデル3に女性がいきなり上ると、「欠陥ブレーキだ!」と叫ぶシーンがSNSで拡散された。女性のTシャツには、「ブレーキが利かない」の文字があった。
後に、この女性の父親がテスラ車を運転中にブレーキが利かず、死亡していたという話が出てきた。
さて、モデル3に上って女性が叫んだ事件に対して、当初テスラ中国法人の幹部は、やらせとみなすかのような発言をしてしまい、火に油を注いだ。
そこに中国共産党中央政法委員会が「テスラは傲慢だ」と批判し「中国の顧客の苦痛に対処すべきだ」とSNSに発信すると、火はさらに燃え上がった。
結局、テスラは謝罪に追い込まれた。
これに先立つ3月には、テスラの車載カメラが、中国の軍関連施設の情報を収集している懸念があるとして、中国軍の施設や軍関係者が暮らす住宅地へのテスラ車の乗り入れが禁止されていた。
中国政府にとってテスラは、上海のギガファクトリー「ギガ上海」を造り、中国人をたくさん雇用してくれて、ありがたい存在だ。
だが、イーロン・マスクに好き勝手やられてはたまらない。
監視社会化を強める中国政府は、テスラをうまく飼いならして、テスラユーザーの走行情報も手にしたいはずだ。