
京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本記事では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。ビジネス界で「ウェルビーイング」が流行語と化し、日本でも志向する経営者が増えているが、本格的に志向しなければ本質を見失ってしまう――。
「幸福」の定義は
個々人によって異なる
人々の心をとらえるキーワードとして急浮上しているのが、今回取り上げる脱成長論「ウェルビーイング」だ。「Well(よい)+Being(あること)」、すなわち「(人や社会にとって)よい状態」を意味する。1946年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章の中で、初めて使われた言葉だとされている。
最近では、SDGsの目標3に「Good Health and Well-being」が掲げられている。日本政府も2021年に発表した「成長戦略実行計画」の中で、「Well-beingを実感できる社会の実現」を謳っている。まさにウェルビーイング大合唱である。日本語では「幸福」という言葉が、ほぼ同義語として使われることも多い。
しかし、これまた極めて曖昧模糊とした言葉と言わざるをえない。幸福と感じることが、人によって、また時と場所によって、まちまちだからだ。仕事から解放されることで幸せに感じる人もいれば、一心不乱に仕事に打ち込んでいる時に至極の幸福感に満たされる人もいるだろう。仲間と楽しい時間を過ごしている時に幸せを感じることもあれば、誰にも邪魔されずに物思いにふけっている時に幸せを感じることもある。
世界幸福度ランキングがよく話題になる。2024年度版もフィンランドを筆頭に、デンマーク、アイスランド、スウェーデンなどの北欧諸国が上位を占める。そして日本は、残念ながら51位。過去10年、ほとんど同じようなランキングに留まっている。なかんずく、人生選択の自由度、他人への寛容度、腐敗認識度などの項目は相対的に劣後している。

京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。