一方のテスラは、中国の顧客は欲しいが、テスラユーザーの走行情報を中国政府に渡す気はさらさらない。ちなみに、テスラは2014年からユーザーの走行データを収集して自動運転開発に役立てている。

 イーロンが力を入れて造った「ギガ上海」では、モデル3が順調に生産され、中国市場でのテスラのブランド力は強く、テスラ車の人気は非常に高い。

 なにより、テスラの売り上げの約3分の1が中国市場で、今後最も高い伸びが期待されている。

 うまみもあるが、苦みもあるのが中国だ。

 かつて、中国政府はグーグルの中国ユーザーの情報を手に入れようとしたが、グーグルはそれを嫌い、中国市場から撤退した。対照的なのはマイクロソフトで、中国政府の要求に抵抗するどころか、シッポを振って応じた。

 日本企業ではユニクロを手掛けるファーストリテイリングや、「無印良品」を手掛ける良品計画は、中国・新疆ウイグル自治区での人権問題で対応に苦慮している。

 正義を通せば金もうけは逃げていく。金もうけに走れば、先進国から批判される。

 取り扱いが厄介な中国と、どのようにイーロン・マスクは付き合っていくのか。今のところは、米国で見せるような高圧的な態度を控えて、中国に対しては低姿勢が目立っているが、果たしていつまで続くか疑問だ。

 さらに米バイデン政権の影響もある。バイデン大統領は対中国強硬路線を表明している。トランプとは違う米中貿易戦争の狭間でテスラのビジネスの将来性が見えづらくなる。そう捉える投資家が少なくない。

自動運転で死亡事故か?

 テスラにさらに影を落とすのは、今年4月に米テキサス州でモデルSが木に衝突し、男性2人が死亡した事故だ。テスラのオートパイロットが作動していたとの話が出た。