スペースXの快進撃の先に

「自動車を量産するより、ロケットを打ち上げる方が簡単だ」

 そんな声が聞こえてきそうなのが、イーロン・マスクが設立し快進撃を続けるアメリカの航空宇宙企業スペースXである。

 今年4月には、スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」が星出宇宙飛行士を国際宇宙ステーションへ輸送し、5月には国際宇宙ステーションに長期滞在していた野口宇宙飛行士を地球へ無事帰還させた。

 ちなみに、星出宇宙飛行士が利用したロケット「ファルコン9」は、2020年に野口宇宙飛行士たちを打ち上げた時のロケットの1段目を再利用したものであり、宇宙船「クルードラゴン」も別のフライトで一度使用した機体の再利用だ。

スペースXにとって、ロケットの再利用はもはや奇跡の出来事ではなく、通常フライトの一連となっている。

 2002年にスペースXを創業し、「ロケットコストを10分の1にしてみせる」とイーロン・マスクが言い放ったとき、「何をバカな、できるわけがない」「大ボラを吹くのもいい加減にしろ」と業界関係者は相手にもしなかった。

 だが、スペースXはファルコン9の打ち上げを次々と成功させ、さらに分離したロケットの1段目を地球に戻して垂直に着陸させ、その機体をもう一度打ち上げる「ロケット再利用」にも世界で初めて成功した。つまり、「使い捨て」が常識だったロケット業界に大きな風穴を開けた。イーロン・マスクは大ボラを吹き、そして実現してみせた。

 いまやスペースXへのNASAの信頼は高い。国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送に、ボーイングなど大手航空宇宙企業ではなく、新参者のスペースXを選んだことが証左だ。さらに、月面探査の「アルテミス計画」でもスペースXの巨大宇宙船「スターシップ」を選定した。

 これでスペースXの未来はひと安心、と言いたいところだが、イーロン・マスクはもっと先を見据えている。

 それは火星だ。この赤い惑星に人類を移住させることが彼の目標だ。

 しかし、ロケット技術だけでなく、人間が半年以上も宇宙船に乗っていて大丈夫なのかという生物学的問題もある。そして、「火星って?そんなの目立ちたくって言ってるだけでしょ」と根本否定の人たちも少なくない。

 イーロン・マスクの戦いは、そんな人たちの冷たい視線も受けながら続いていく。

(経営コンサルタント 竹内一正)