ほとんどの時間を仕事に費やし、稼いだお金を散財する――そんなアメリカ人のライフスタイルを変えた1冊がある。全米の若者にFIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメントを引き起こした『お金か人生か』(ヴィッキー・ロビン+ジョー・ドミンゲス 著/岩本正明 訳)の日本版がついに刊行された。本書の初版が出版されたのは1992年で、原書はこれまでに100万部以上を売り上げた大ベストセラー。ミレニアル世代からの人気を受けて、2度目の改訂版が出版された。FIREムーブメントのバイブルだ。社会派ブロガーのちきりん氏は「やみくもに稼ぐだけが正解じゃない。超合理的なアーリーリタイアへの道標」と同書を評する。日本でもFIREが認知されてきたが、まだその根底にある考え方は知られていない。同書を読むことで「本当の経済的自由は何か」がわかるとともに、「お金に縛られない生き方」を実践できるようになっている。今回の日本語版刊行を記念して、内容の一部を公開しよう。

現代人は墓場を建てるために働いているPhoto: Adobe Stock

人生の大半は
お金を稼ぐために使っている

 仕事が好きな人も、なんとか耐え忍んでいる人もいますが、いずれにせよ働いている人の中で、お金か命かの選択をできるような人はほとんどいないように見受けられます。起きている時間の大半は、お金を稼ぐための仕事に占められ、人生と言える部分は残された少ない時間に限られてしまいます。

 経済が発展している都市部で働く平均的な労働者を想像してみてください。

 朝6時45分に目覚まし時計が鳴り、1日が始まります。携帯電話を確認し、シャワーを浴び、仕事着――スーツ、作業服、白衣、ジーンズとTシャツなど――に着替えます。朝食は時間があるときだけ。コミューターマグとカバン(もしくは弁当)を手に取り、ラッシュアワーという毎日の苦役のために、自分の車もしくは混雑したバスや電車に乗り込みます。

 9時5時の(もしくはもっと長い)仕事の間、上司に対応し、悪魔が送り込んだ神経を逆なでする同僚に対応し、仕入先に対応し、クライアント(もしくは顧客、患者)に対応します。仕事のメールは次々にたまっていきます。忙しいフリをし、ソーシャルメディアの画面をスクロールします。

 仕事のミスを隠します。締め切りに間に合いそうもない業務が与えられれば苦笑いします。リストラというナタがほかの人の頭上に振り下ろされれば、ホッと胸を撫で下ろします。追加の業務が与えられ、時計を見ます。良心の呵責を振り切って、上司の指示に従います。また苦笑いです。

 午後5時になると、帰宅のために車やバス、電車に乗り込みます。夫や妻、子ども、ルームメイトといるときには、人間に戻れます。自炊して、夕食の写真をインターネットに載せます。夕食を食べます。お気に入りの番組を見ます。最後のメールに返信します。ベッドに入ります。あらゆることを忘れられる幸運な8時間です――運がよければ。

 これが果たして、暮らしを立てていると言えるでしょうか?