新しい生存目標の発見は、急激に、一挙に行われることもあれば、長く苦しい暗中模索を経る場合もあるだろう。いずれにしても、その新しい目標が生きがい感をもたらすには、それがその人自身の内部にある、本質的なものの線に沿ったものでなくてはならない。

一読のすすめ

 要約ではあまり紹介できなかったが、本書には古今東西の偉人や古典文学からの、生きがいにまつわるさまざまなエピソードが散りばめられている。『失楽園』を著した中世イギリスの詩人ミルトンは、青年期は政治運動に没頭したが、その後、健康を損なってついには失明する。彼は若い頃に志した詩の道を再び目指し、52歳の時に『失楽園』に取り掛かったという。生きがい=幸福ではないとはいうものの、生きがいとはかくも複雑で一筋縄ではいかないものだと再認識させられる。

 著者は生きがいを「人が生きるために必要なもの」としながら、それに対して肯定も否定もしていない。とかく性急な判断が求められる今の世で、複雑なものを複雑なまま捉える態度には、どこか救われる思いがする。

 末長く、本棚の片隅に置いておきたい一冊に出会えた――それが正直な感想である。

評点(5点満点)

総合4.5点(革新性4.5点、明瞭性5.0点、応用性4.0点)

著者情報

 神谷美恵子(かみや みえこ)

 1914年岡山に生まれる。1935年津田英学塾卒、プリンマー大学・コロンビア大学に留学。1944年東京女子医専卒、同年東京大学医学部精神科入局。1952年大阪大学医学部神経科入局。1957-72年長島愛生園勤務。1960-64年神戸女学院大学教授。1963-76年津田塾大学教授。医学博士。1979年10月22日没。

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