1986年、奈良県に開校した西大和学園は、東大・京大合格者数を急増させて片田舎の無名校から一気に全国レベルの有名進学校に上り詰めた。同学園が運営する大和大学は2014年に開学。20年には大学院を持たない稀有な理工学部を設置した。特集『入試・就職・序列 大学』(全23回)の#12では、西大和学園創始者で大和大学学長の田野瀬良太郎・元衆議院議員にその野望を聞いた。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
大企業の理系採用を足で調査
大学院設置を諦めた理由とは?
――大和大学では2020年度から新たに理工学部を設置しましたが、その紹介パンフレットに、新学部のポイントの一つとして「国公立大学大学院進学を強力にサポート」を打ち出されています。率直に言って、ずいぶん思い切ったなと。他大学の大学院進学を売りにする大学は非常に珍しいと思うのですが、その狙いは何でしょうか?
実は、理工学部をつくるに当たって、学生の就職先となるメーカーを中心とした企業サイド、特に大企業ですが、彼らがどのような学生、人材を求めているのかということを、ずっと尋ねて回りました。
なぜ大企業中心かというと、もちろん就職先として将来有望なベンチャー企業だったり、優秀な中小企業だったり、他にも多くありますが、多くの学生には、その親御さんも含めて、一定規模以上の大企業に勤めたいというニーズが歴然としてあります。他大学でもパンフレットなどで、従業員数○○○人以上の大企業や有名企業に○人就職したということが、一つのバロメーターとして掲載されている現実を見ても、(大企業への就職力という)その視点は無視できないと思ったんですね。
それで主に大企業を歴訪させていただいたわけですが、それで分かったのは、大企業の理系人材採用のおよそ8割が大学院修了者であること。しかも、さらにその8割が私立大ではなく国公立大の大学院修了者というシビアな現実でした。
その実態を知ったときに、私立大の中でも後発中の後発である本学の理工学部が、いきなり初めから大学院をつくってもあまり意味がないなと思いましたね。もちろん、国公立大の理工系学部の入学者に匹敵するような優秀な学生が初めから入学してくれるのであれば、大学院を同時につくってもいいのでしょうけれど。もちろん、後々に(大学院の設置を)目指しますが、当面はそうはいかないと思いましたね。
それならば、勢いで大学院を同時につくるのではなく、国公立大の大学院受験に向けた進路指導をする学部教育も必要ではないかと、考えを切り替えたわけです。もちろん、学部を卒業してそのまま就職する学生のための進路指導も併せてしなければなりませんけれども。
――しかし、他大の大学院に移った学生と内部進学者の学生で、就職に差が出ることはないのですか?
それについても各企業に聞きました。「(学部の)出身大学は就職時に影響あるのか?」と。