「コミュニケーション能力」には発信力と受信力が必要

 1対1で行うコミュニケーションとは、自分の意思・意図を他者に伝達することであり、発話者は自分の考えていることを相手に伝え、受話者は伝達を受けた相手の伝えたい内容を理解することである。互いに共通の認識をつくり、2者間で分かち合う「何か」を生み出すための手段ということもできるだろう。

 コミュニケーションは、まず、発話者の中にある意思、意図がバーバル(言語的)・ノンバーバル(非言語的な声のトーンや表情など)な形で相手に投げかけられることから始まる。しかし、投げかけた情報は伝えたい意思、意図を十全に表現しきれていないことも多く、情報量は減衰してしまう。また、受話者は減衰した情報に自分のイメージを加えて相手の意図を受け取るため、受け取った情報を歪ませてしまう。つまり、コミュニケーションの1回の発信・受信であっても減衰と歪みが発生し、それらを繰り返すことによって修正しながら分かち合う「何か」をお互いが組み上げている。

 我々は情報伝達の過程とその結果を合わせて「コミュニケーション」と捉えており、この分かち合う「何か」を作り上げる過程に必要となる力を「コミュニケーション能力」と呼んでいる。その能力は自身の意思や意図をできるだけ減衰させずに発する「発信力」と、受け取った情報にできるだけ自身のイメージを付加せずそのまま受け取る「受信力」のふたつで表される。つまり、自分の伝えたいことを適切に伝えられる発信力と、発せられた多くの情報を正確に受け取る受信力が「コミュニケーション能力」といえる。 

 では、こうした「コミュニケーション能力」を求める企業が多いのはなぜか。ひとつには金融業や流通業、小売業などにおける接客・営業に従事する人の採用が、管理や事務業務に従事する人の採用に比べて非常に多いということが考えられる。接客や営業に携わる人を多く採用する企業が「コミュニケーション能力」を求めるのは、正確に顧客の意図を汲むという意味で当然であり、採用で重視する企業の多いことが予想される。

 もうひとつは、企業の組織内で働くためには「コミュニケーション能力」が必須であると認識されているということだろう。

 私は仕事柄、企業の人事の方と話す機会をいただくことがあるが、「若い人たちが周囲とうまくコミュニケーションが取れない」「若い子たちが何を感じているか分からない」とおっしゃる方は多い。ジェネレーション・ギャップという言葉で説明できる部分もあるが、それだけではないようにも思われる。