公開動画累計400本以上、チャンネル登録者数95万人のYouTuber・マコなり社長さんと、編著書累計93冊、1100万部を超えるライター・古賀史健さん。ふたりの対談【vol.2】は、より多くの人に届ける「コンテンツのつくり方」に展開していきます。トッププレイヤーのふたりは、誰に向けて、どんな姿勢で、“おもしろいコンテンツ”をつくり続けているのでしょうか。(構成:徳瑠里香、撮影:田口沙織)

作品でも商材でもなく、人に喜ばれる「商品」をつくれ!Photo: Adobe Stock

自分の泉が空っぽになってからの
「取材」が勝負

マコなり社長(以下、マコ) 僕のYouTube動画は、徹底的な「取材」が要なんです。周りの経営者たちは「原稿なんかつくらなくても話すことなんていくらでもある」ってよく言うんですよ。でもみんな、20本くらいで更新が止まる。自分の中に伝えたいことなんて実はそんなにない。だから僕は、テーマを決めてめちゃくちゃ調べるんです。

古賀史健(以下、古賀) 僕もここ6年くらい平日は毎日noteを書いていて。みんな真似して毎日やってみるって言うんですけど、だいたい10日や1ヵ月で更新が止まりますね。「書くことがなくなっちゃった」って。でも、「書くことがなくなってから」がほんとうの勝負なんですよ。自分の泉が空っぽになって、そこから何を取り入れていくのかというセレクトに、その人の個性が出てきますから。

作品でも商材でもなく、人に喜ばれる「商品」をつくれ!古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター
1973年福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。1998年にライターとして独立。著書に『取材・執筆・推敲』のほか、31言語で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎共著)、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』など。構成・ライティングに『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(幡野広志著)、『ミライの授業』(瀧本哲史著)、『ゼロ』(堀江貴文著)など。2015年「書くこと」に特化したライターズ・カンパニー、株式会社バトンズを設立。2021年7月よりライターのための学校「batons writing college」を開校。

作家でも、デビュー作は自分の実体験から書けるけど、2作目、3作目とコンスタントに書いていくには、取材や深い思考が必要で、そこではじめて真価が問われてくる。ライターやYouTuberも同じですよね。

マコ 昨日もYouTubeで「偉人の名言」ランキングをつくろうと思って、第5位に選んだ宮崎駿さんについて調べ始めたら、それだけで6時間経ってました。ウィキペディア読んで、関連記事読んで、DVDを買って観て……最初は話すことないなって思ってたのに、調べるうちに語りたいことが溢れ出てしまって。第5位だけで1本30分、語り倒したいくらいでしたよ。

古賀 僕にとっての取材は「カメラを増やすこと」なんです。普段見ているのは正面からの、一人称のカメラ。でも、そこでいろんな角度から取材を進めていくことで、上からのカメラや煽り位置のカメラが増えてきて、自由にスイッチングできるようになる。そしてカメラの台数が増えていくほど、原稿が豊かでおもしろいものになっていく。以前、堀江(貴文)さんの本をつくったことがあって……。

マコ 『ゼロ』ですよね? 堀江さんの本は全部読んでますが、一番好きです!

古賀 『ゼロ』は堀江さんに密着取材をして書いたんですが、あの人、タクシーに乗って普通ならちょっとだらってしちゃう瞬間も、ずーっと何かしてるんですよ。メルマガの原稿を書いたり、スタッフに指示を出したり、一時も休まない。真面目に仕事をすることに関しては、明らかに尊敬しなくちゃいけないなと。そうやって知るたびに、堀江さんを撮る「カメラ」が増えていくんです。

マコ 堀江さん、めっちゃ好きですね。主張に賛否はありますが、キャラクターとして(笑)。対談もさせてもらいましたが、常に勉強し続けていて、圧倒的な知識を持っている人には敵わない。

作品でも商材でもなく、人に喜ばれる「商品」をつくれ!マコなり社長
本名:真子就有(まこ・ゆきなり)。1989年福岡生まれ。青山学院大学理工学部卒業。株式会社div代表取締役。登録者94.5万人のYouTuberとしても活躍中。学生時代からプログラミングを独学で学び、エンジニアとしてITベンチャーに勤務。在学中に起業し、複数のサービスリリースを経験。2014年よりプログラミング教育事業をスタート。2016年に開始した日本最大規模のエンジニア養成スクール「TECH CAMP」での転職成功人数は2000名以上にのぼる。2015年11月Forbes誌「注目のUnder30起業家10人」に選出された。

古賀 堀江さんは小学生の頃に家に本がなかったから、百科事典を隅から隅まで読んでいたそうですよ。

マコ 僕、ウェブサイトで一番好きなのがウィキペディアなんです。つい最近もミネラルウォーターについてずっと調べていたんですけど。想像以上に世界にはまだまだ知らないことがたくさんあって、それを知るだけでも人生おもしろいなって。

古賀 純粋な知識欲ですよね。そうやってたくさんの知識を仕入れておくと、たとえば後日なにか全然別の原稿を書くときに、その対象とは一見関係ない「ミネラルウォーターで仕入れた知識」が原稿をおもしろくしていくんですよね。自分の視野は圧倒的に狭いんで。

だから僕は、『取材・執筆・推敲』にも書いたんですが、ライターに雑学や苦手な分野の本も含め「乱読」することをすすめています。たとえば僕の場合、理科系が苦手なので、あえて科学や数学の専門書を読んで土地勘をつけておく。そうして必要なときに、記憶のタグを引っ張ってこれるようにしています。

取材にあたって、対象のことを調べるのは当然。いかに関係のない知識の枝葉を増やしていくかが、コンテンツをおもしろくするんですね。

読者の視点から
「理屈の階段」を登る

マコ 編集者やライターは自分の持論を展開するわけではないじゃないですか。著者や取材者が言っていることに対して、理屈が通ってないな、極端だなって思うときはどうするんですか?

古賀 何度も例に出しちゃいますけど、たとえば堀江さんの主張に自分が納得できないことがあったとします。でも、その主張には必ず「理屈の階段」があるはずなんです。堀江さんは、堀江さんなりの「理屈の階段」を登って、屋上から結論だけを叫んでいる(笑)。商店街のおじさんだって誰だって、自分なりの理屈を経て、しゃべっている。僕は、その人の主張のロジックを探るのが楽しいんです。その主張が自分の主張と一致しなくても、まったくかまわない。その人なりのロジックを掘り起こして伝えるのが僕らの仕事なので。

マコ なるほど!それはYouTubeでも同じです。僕は「デメリットプレゼン」という造語を使っているんですが。YouTubeで数字が伸びるのははっきりとしたオピニオンです。でも真っ向勝負すると必ず反発をくらう。

だからたとえば、「お金持ちになるためにやるべきトップ3」を話すとしたら、ランキング発表の前にめちゃくちゃ言い訳をするんですよ。お金持ちにならない人生もすばらしいですよ、いいか悪いかは別としていまは稼ぎたい人に向けて話しますよって。前置きが長い。反対意見や別の価値基準は必ず存在するんで。

発信する人間には、そういう想像力は必須ですよね。『嫌われる勇気』なんて、そういう存在を本の中に置いている。

古賀 それこそ『嫌われる勇気』って、最初は岸見さんの単著で、岸見さんの一人称で書こうと思っていたんですよ。でも、そのまま書いたら絶対読者から反発がくるだろうなと。だったら一番いじわるな読者を先兵として送り込んじゃおうと出てきたのが「青年」なんです。

マコ 僕、「青年」が大好きなんですよ。理屈っぽくて、気持ちの移り変わりが激しい。納得したかと思ったらまたぶり返してしつこく聞く、その人間らしさが。

古賀 若かりしときの僕ですね(笑)。

マコ 最高です。アドラー心理学はそのままでは、誰も乗りこなせない赤兎馬のようだけど、「青年」という反発者を内包することで、読者にぐっと近づける。

古賀 本をつくっている最中も、反発する読者にもカメラをセッティングして、書いてる自分と行ったり来たりすることで、コンテンツの強度を高めていきました。

「作品」にこだわり続けることで
見失ってしまうもの

古賀 作家やライターって、自分の書いた本を「作品」って呼ぶことが多いでしょう? 僕は常々その言葉には疑いを持ったほうがいいと思っていて。

僕らはやっぱり読者に喜ばれる「商品」をつくらなきゃいけない。アーティストが純粋芸術として表現する「作品」ではなく、読者からお金を巻き上げるような「商材」でもなく。

作品でも商材でもなく、人に喜ばれる「商品」をつくれ!

読者にベネフィットがある「商品」には、本来めちゃくちゃ価値があると思うんです。伊坂幸太郎さんの小説もハリウッド映画も究極、「商品」だと僕は思っています。「商品」って言葉を蔑(さげす)んではいけないんですよ。

マコ 僕は起業してすぐ、100%主観でおもしろいと思うアプリをつくっていたんですが、そこに求める人、市場がなかったので苦しかった。当時はアーティストとして「作品」をつくっていたんだと思います。山にこもって絵を描いているならよかったんでしょうけど、資金調達をしてリターンが求められる世界でアート活動はできない。

いろいろ失敗した挙句、講義形式ではない、質問し放題の「TECH CAMP」のアイデアが浮かんで。プログラミングスクールならお金を払ってもらえるなと。自分のやりたいこととお金を払ってまで求められることが一致した結果、いまの事業が回り始めたんです。

古賀 山にこもって現実との接点がない中で、自分がつくりたい芸術作品だけをつくっているのでは、お客さんにも喜ばれないし、ビジネスにもならないですよね。作品と商品の間のどこに自分の点を置くか。そこに、その人の表現活動や創作活動がある。

マコ ただ僕は憧れがあるんですよね。作品を貫いた先に商品になってしまうような、生前は認められなかったけど死後に評価される作家の存在に。

古賀 以前、フランスのゴッホが最期に暮らしていた家を訪ねたことがあって。小さなカフェの屋根裏部屋を間借りしていたんですが、そこにあった弟に宛てた手紙の中に「いつの日か、このカフェで個展を開けたらと思うんだ」って書いてあったんです。

マコ いまじゃゴッホ展で美術館を貸し切るくらいなのに!

古賀 ゴッホの絵は1枚20億くらいしますからね。そのカフェが、ゴッホの夢を叶えたいと個展を開くための寄付を集めていたくらいで。ゴッホは生前は評価されなかったけど、見つけられなかっただけでやっぱり人を喜ばせるだけの「商品」をつくっていたと思うんです。

マコ 「商品」だから僕もゴッホを知り、憧れることができるわけですもんね。やっぱり求められるものをちゃんとつくっていかないといけない。

古賀 ライターでも作家でも「作品」にこだわっていると、読者という大事な存在を見失っちゃうと思います。

コンテンツにお金を払うのは誰なのか

古賀 その点、YouTubeは視聴者からダイレクトに反応が届きますよね。

マコ そうですね。YouTubeはアルゴリズムでみんながおもしろいと思うものの再生回数が伸びる設計になってるので、反応はめっちゃ気にします。自分がいける!と思ったものが伸びてないと眠れなくなるので、結果は夜寝る前ではなく、必ず朝起きてから見るようにしています。こう見えてけっこう気にしいで繊細なので。

古賀 いやあでも、視聴者との距離がより近いのはいいですよ。僕、大きな企業さんの広告案件の仕事はできるだけやらないようにしていて。読者ではなくクライアントからお金をいただくかたちになるのでね。

僕が本をつくっていて一番嬉しいのは、読者からお金をもらっている実感があることなんです。1冊1冊買ってくれた人がいて、それが印税というかたちで僕の生活を支えている。たとえクライアントに嫌われたとしても、読者さえ喜んでくれたら仕事が成立するっていう環境が気持ちいいんですね。その点、YouTubeは視聴者とのつながりが本よりもずっとリアルに感じられるでしょうから、うらやましいです。

マコ そうですか? YouTubeは広告メディアなので、自分がつくったコンテンツへの対価がずれてきますよ? 中身がなくても釣りのタイトルとサムネイルでクリックさえされれば、数字が稼げて広告費が入ってくる仕組みになってるんで。だから僕も、ネガティブなタイトルとサムネイルにせざるを得ない。YouTubeのフォーマット、客層、マコなり社長というキャラクター、わかりやすい言葉で印象的な話し方……逃げられない檻の中にいるんです。

古賀 何層にも檻が重なっているんですね。

マコ でもその檻の中にいるから、より多くの視聴者にダイレクトかつ無料でコンテンツを届けることができる。そこに大きな価値を感じていますが、本のようにコンテンツそのものに読者がお金を払う仕組みにも憧れます。いい本はずっと読まれ続けるけど、10年後も残るYouTubeは想像できないからなあ。

古賀 昔、週刊誌の記者をやっていたとき、「発売期間1週間だけのためにコンテンツ」を量産している自分に、オレは何も残してないんじゃないかって悩みがあったんですよ。そういうむなしさに襲われることはないですか?

マコ むなしさを感じる間もないほど、巨大なモンスターに追われている感覚ですね。歩みを止めると喰われちゃうような。というのも僕はまだ、キャリアとしても長く残せるものをつくれるところまで行き着いてないんですよ。だからいまはひたすら前に進んで積み上げていくしかない。いつか、本というかたちで長く残るものを書いてみたいです。

古賀 いやあ、マコなり社長さんが書く本を読んでみたいなあ。

マコ 書きます! ただ、僕の中ではまだタイミングではない。50歳くらいになってからかなあ……。

古賀 え、そんな先!? もっと早く書いてくださいよ(笑)。作品に近い、商品を。

作品でも商材でもなく、人に喜ばれる「商品」をつくれ!

(【vol.3】に続く)