もっとはやく、この本に出合いたかった。ライターとして、そう思わずにはいられない本が刊行された。『取材・執筆・推敲──書く人の教科書』。ずっしりと重みのあるA5判の分厚い本書のボリュームは、476ページ。じつに21万字をかけて語られた「書くことの本質」に、ライターや編集者だけでなく、起業家やビジネスパーソンからも驚愕の声があがっている。それもそのはず、上梓したのは、日本では252万部、中国、韓国でもそれぞれ100万部を突破した世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者であり、日本トップクラスのライター・古賀史健氏だ。編著書の累計部数は1100万部を超え、編集者からの信頼も厚い彼の「プロライターとしての覚悟」が込められた本書は、まさに「文章本の決定版」である。
今回は、本書の刊行を記念し、「ライターの仕事術」をテーマに特別インタビューをおこなった。多忙ななかでのスケジュール管理法やnoteを1500日以上更新し続けている理由など、古賀氏のストイックな姿勢にせまる。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)
「迷いの時間」がスケジュールを遅らせる
──わたし、出版業界で働きはじめたころから「古賀さん伝説」のようなものをよく耳にしていたんです。古賀さんほどやる人はいない、と。「『嫌われる勇気』は22回推敲した」という噂を聞いたのですが、ほんとうですか?
古賀史健(以下、古賀):22回推敲じゃなくて、「第22稿」ですね(笑)。ゲラのかたちで出力し直してもらったのが22回。推敲だけでいったら、22回どころじゃないです。
──えええ!
古賀:まあ、DTPのディレクターさんを巻き込んだ特殊なやり方だったので、あまりおすすめはできませんが(笑)。
──いまも昔も、ご多忙ななかで結果を出してきたと思うのですが、どうやってスケジュール管理しているのでしょう。
古賀:いや、えーと、自著についてのスケジュール管理はできてないですよ(笑)。この『取材・執筆・推敲』もほんとうは3ヵ月くらいで書き上げるつもりが、結局3年かかっちゃったし。
ただ、それとはべつに、この本を書いているあいだも雑誌やウェブの仕事をしたり、別の本をつくったりはしていて、そういう仕事の締切はかならず守ります。
──だいたい、年に10冊くらいのペースでつくってこられたんですよね。
古賀:いちばん多いときは年間18冊やっていましたね。
──18冊!
古賀:いつも同時進行で4冊くらいの企画が動いていたんです。最短だと44時間、不眠不休で1冊、10万字くらいの本を仕上げたことがあります。
ライター
1973年福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。メガネ店勤務、出版社勤務を経て1998年にライターとして独立。著書に『取材・執筆・推敲』のほか、31言語で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著)、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』など。構成・ライティングに『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(幡野広志著)、『ミライの授業』(瀧本哲史著)、『ゼロ』(堀江貴文著)など。編著書の累計部数は1100万部を超える。2014年、ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして、「ビジネス書大賞・審査員特別賞」受賞。翌2015年、「書くこと」に特化したライターズ・カンパニー、株式会社バトンズを設立。次代のライターを育成し、たしかな技術のバトンを引き継ぐことに心血を注いでいる。その一環として2021年7月よりライターのための学校「batons writing college」を開校する。
──えええ! 脳みそ、へろへろになりませんか?
古賀:もう、寝ながら書いてましたよ(笑)。でも、なんとか書き上げて、いちおう重版にはなりました。
締切を守らなきゃいけない仕事をするうえで気をつけているのは、ふたつ。
まず、「迷いの時間」をつくらないこと。スタートする前に原稿をしっかり練る。原稿制作の過程が1から10まであるとすれば、うまく文体がつかめないとか、構成が思いつかないとか、いちばん苦労するのは1から3くらいまでの「入口」なんです。だから、1から3までのスタートダッシュでつまずいてスケジュールが遅れることがないように、スタートする前にしっかりと考える。
そのときに大事なのが、「迷いの時間」をつくらずに「決める」こと。ぼーっと、ただもやもやして迷っているだけの時間をつくらない。箇条書きで内容を洗い出したり、構成を考えたり、「どうしようかなあ」って考えたりしているつもりのときって、考えているようで考えていないことが多いんです。
「考えること」と「迷うこと」は全然違うので、迷わずにまずは決める。最初の1行を書く。決めて・書いて・読み返す。ダメだったら潔く捨てる。そのくり返しで、「原稿を考えている」状態から「原稿を書いている」状態に持っていく。「迷いの時間」がスケジュールを遅らせるんですよ。
あとは、雑誌やウェブなどの仕事に関しては、締切の2日前までには編集者に送る、という目安を持っています。というのも、ぼくは編集者にもしっかりと読み込む時間を与えたいんですよね。ギリギリのスケジュールで送ると、向こうも時間がないから「とりあえずこれで入稿しておきますね!」みたいなかたちになる。でも、そんなふうに右から左に流すだけの作業だったら、編集者がそこにいる意味がなくなっちゃいますよね。
編集者にもちゃんと仕事をしてもらいたいから、締切の1、2日前には提出して、まる1日かけてじっくりと考える時間をつくってもらう。これは自分のなかでルール化しているところです。