・英雄的な賢人の科学的発見・発明・生産が重要

 人を富ませるのは賢人の科学的発見であり、事業家が艱難辛苦を乗り越えて得た達成である。それがなければ、たとえば現場の工場の作業員の仕事は創造されない。本書からは、科学者や事業家こそが重要であるという強いメッセージが発せられている。そして、このメッセージに多くの人たちが影響を受け、実際に起業家や企業家や科学者になり、アメリカを支えているといわれる。

 同時に、社会全体に最もすぐれた人が、科学や事業創造に従事するというコンセンサスがある。一方、現場の人々の小さな努力を尊び、そのような映画や小説ばかりが支持される日本のような社会もある。そこでは科学者や事業家は決して英雄にならないし、そうした社会では、真面目な小人は量産されても、エリートの矜持で社会に対峙しようという大人物は滅多に生まれてこないだろう。

・富の不平等を必然と見なす

 前述の科学者や事業家の生み出す価値はとてつもなく大きいものであり、その貢献に見合った報酬を当然のものとして獲得すべき、というのがランドの主張である。この主張は、一部の価値を創造できる人たちと一般人の報酬の差が天文学的な差となったとしても、生み出した価値が違うのだから当然だという共通理解を社会に行き渡らせる下支えとなっている。

富が偏在する弊害は
認識されていなかった

 しかし問題は、報酬の多寡がその子ども世代が知性を獲得するための教育レベルの格差とダイレクトに結びついてしまい、階級化が社会分断を加速させることである。また、資本主義が高度化すればするほど、ストックされた富そのものが富を生む構造になり、本人の知恵やアイデアと無関係に(腕利きの投資コンサルタントや資産管理人のような)適切な代理人さえ発見できれば、投資によって利益が生まれる状況になっている。アイデアを生んだ科学者や事業家でなくとも、その一族である一部の富裕層に富が偏在する。これはランドがこの本を書いた時代には、まだあまり認識されていなかった点である。