今回採り上げるのは、1971年に出版された、土居健郎著の大ベストセラーとなる日本人論『「甘え」の構造』である。本書は精神科医の著者が一度学術雑誌に発表したものを再構成し、一般書として出版したもので、心理学、精神分析学、比較文化論などの学術的文脈では、批判や議論も多い。本稿では、論や見解の妥当性を議論するのではなく、本書に登場する見立てを援用して、現代の会社や職場での人間関係の作り方のヒントを考えてみる。

甘えとは「依存である」
という定義

会社員の副業はやはり危険!?名著『「甘え」の構造』が暴く日本企業の本質『「甘え」の構造』土居健郎著(弘文堂)

 副業時代である。個人の能力を発揮するチャンスが生まれると同時に、まだ多くの人が熟知していないリスクもあり、さまざまな自衛も必要になってくる。しかし、会社というシステムの中で守られて生きてきた多くのビジネスパーソンは、なかなか副業時代の個人と会社の在り方がイメージできないのではないか。

 そんなとき、土居健郎氏がベストセラー『「甘え」の構造』で提示した見立てが、ひとつのヒントになる。同時に、なぜ新入社員はすぐ離職するのか、なぜ世の中でハラスメント事案が絶えないのか、そしてあまり関係ないと思われるかもしれないが、なぜ最近吉本興行の芸人の契約解除がよく問題になるのか――。こうしたことも、同じ見立てで解読できるのである。

 まず、甘えとは何か。『「甘え」の構造』の英訳は、「The anatomy of dependence」(依存性の解剖学)である。甘えとは依存性のことである。「甘えの心理的原型は母子関係における乳児の心理である」。(引用は以下すべて、土居健郎『「甘え」の構造』弘文堂、2007年)