開戦:どちらがギリギリまで耐えられるかの勝負

 麦茶を少し残す、といった夫の“ちょい残し”は各所に発揮された。トイレットペーパーやティッシュなどは交換が必要なギリギリの量が残された。洗い物当番が夫の日は、鍋のみそ汁やカレーも鍋を洗わなくて済むようにちょい残しである。

「私が夫の負担を肩代わりすることで夫が少しでも楽になればいい、と自分に言い聞かせもしたが、うまくいかなかった。夫からの感謝が感じられなかったことと、夫のセコさが日に日に増していったからだと思う」(Aさん)

 Aさんは夫に注意をしもしたが、改善は見られなかった。Aさんは腹が立ってきて、全面対決する決意をひそかに固めた。

 まずは交換が必要な生活用品、これをAさんが「絶対に交換しない」という構えである。

 しかし戦況はさっそく思わしくなかった。たとえば歯磨き粉が入っているチューブ、これが減ってくれば人間は誰しもが中に残っているものを絞り出そうと努力する。Aさんはいつもなら交換する残量になっても交換せず、苦心して絞り出した。夫のターン、夫はさらにそこから絞り出す。Aさんも負けじとそこから絞り出し、「意外と絞り出せる」という新鮮な発見に出合いもしたが、夫はそこからさらにまた絞り出すのである。幾度も限界を超えて絞り出された歯磨き粉のチューブは、一見質量が消滅したかと思えるほどに縮み上がっていた。

 トイレットペーパーも駆け引きのしどころであった。ロールの残量を見て、Aさんは「あと1日はもつだろう」と判断する。その日夫が使ったあとにトイレに入ると、大量のペーパーが使用されてロールにはもはや10cmほどしか残っていない。これをやられたらAさんは交換するしかない。夫はAさんより一枚も二枚も上手だった。

 シャンプーの詰め替えパウチを、「なくなったら交換してほしい」という気持ちも込めて風呂場に置いても当然無駄だった。シャンプーが正真正銘の空になったら、夫は詰め替えパウチから直接使用したのだ。

 交換とちょい残しをめぐる戦いが続くうち、Aさんはひとつの可能性に気づきつつあった。