日本史の「やばい」偉人ベスト3

本郷 本書のなかでは、まず菅原道真ですね。菅原道真は本当に頭がよくて、「遣唐使、やめません?」と天皇にプレゼンして、やめさせちゃうんですよ。当時の唐は内乱でガタガタで、道真はそれを知っていたんです。その後唐からの文化の輸入がなくなった日本では、国風文化が発展しました。

 でも、道真は出世しすぎて疎まれてしまったんですね。左遷されていじめられ、早死にしてしまった。けれど彼の死後、都で災いが次々に起こったものだから「これは道真のたたりだ!」と大騒ぎになって、怨霊あつかいされて神社にまつられ、いつの間にやら学問の神様にされてしまった。なかなかあり得ない、やばい展開だと思います。

―― たしかにやばいですね。ほかには誰がいますか?

本郷 勝海舟の話も、知らない人が多いんじゃないかな。彼はアメリカに使節を送る咸臨丸(かんりんまる)の艦長だったのに、実はものすごく船酔いするタイプだったんです。そのせいで、艦長なのに航海中ずっと病人同然で、何の役にも立たなかった。これは、ずいぶんやばい状況といえます。

―― 知らなかったです。海に勝つという字の名前なのに……。

本郷 勝海舟っていうと、江戸城無血開城とか、日本人ではじめて太平洋を横断したという武勇伝はみんな知っている。だけど、こういう「まさか!」と思うダメな一面がわかると、ぐっと親近感を覚える人もいるんじゃないですかね。

渋沢栄一がずば抜けて「すごい」理由

―― 渋沢栄一にも「まさか」の一面がありましたね。

本郷 そう、実は、日本資本主義の父として知られる渋沢栄一は、非常に女性関係が激しかった。

―― 68歳で浮気相手との間に子どもができたとき、「いや、お恥ずかしい……若気の至りで」と言ったエピソードには笑いました。やっぱり「英雄色を好む」なんだなぁと。

本郷 意外な一面ですよね。でも、やっぱり渋沢栄一は偉大な人ですよ。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」を体現して、日本経済の土台を築いた人ですから。当時、商売はすごく下に見られていたけれども、『論語と算盤』という本で、孔子の儒教の教えと商業は矛盾しないと説いた。そして、いろんな会社をつくっていろんな商売をはじめた。

 江戸時代の武士道も、儒教を根拠として成り立っていたわけだから、武士道と算盤も矛盾しないと。つまり、商売を誠心誠意やることは世間にとっていいことだという考えを浸透させたわけですよね。だから資本主義の父なんですよ。

 会社は社会のものだからみんなに株を持ってもらいたいと言って、渋沢一族で利益を独占することもしなかった。社会のことを第一に考えて、自分の儲けを二の次、三の次にしたという意味でも、渋沢栄一はすごい人だなと思います。