サブスク型メディアに求められること

 さて、KPIを設計し予測モデルを組んでも、それだけではサブスク型メディアは成長しません。以下は、筆者がダイヤモンド社でサブスク型メディアに携わるなかで実感した、KPIやモデル以外で「サブスク型メディアの成長に求められること」の一例です。

1. コンテンツ、ビジネス、テクノロジー間の緊密な連携

 月並みではありますが、一言でいえばこれが最も重要だと考えています。「緊密な連携」とは、それぞれのプレイヤーが時に他の領域に関する知識を身に付けたり、事情を理解することも含まれます。ビジネス側はコンテンツの内容に踏み込んだ提案を行う必要があるときもあるでしょうし、コンテンツ側は技術上自分たちのメディアで何ができて何ができないのか、理解する必要もあるでしょう。またテクノロジー側にもビジネスモデルを理解すべきタイミングも生じると思います。

2. コンテンツ、ビジネス、テクノロジー間の適切な緊張感

 一方で、他の業務領域に寄り過ぎないことも重要です。コンテンツ側がビジネスの側に寄りすぎると、新規性のあるコンテンツが減ってしまうかもしれません。ビジネス側がテクノロジー側に寄りすぎると、細かい開発リクエストが増えてしまい、事業上どうしても必要な開発が後回しになってしまうかもしれません。

 また、テクノロジー側がコンテンツ側に寄りすぎると、編集部の“旧来のやり方”や時々の編集長の好みなどを尊重するあまり、CMSやデータベースといった基幹システムがレガシーなまま維持されてしまうかもしれません。

「連携しろ」と言ったり、「寄りすぎるな」と言ったりと、相反することを書いているようですが、事業というのは様々なプレイヤーのこうした動的な緊張関係によって成長するというのが個人的な実感です。当然、各持ち場同士の対立というのは発生するでしょうが、それを単なる対立と捉えるのか、事業が前に進むチャンスだと捉えるのか、それによって将来に大きな差が発生するのではないでしょうか。

改めて、サブスク型メディア発展のために

 以上をまとめると、重要なポイントはこの4つになります。

1. ビジネスモデルによってメディアの持つ数字の性質(メディアのカタチ)は異なる
2. サブスク型モデルでは予測モデルを持つことが重要
3. 新規獲得だけでなく既存会員の維持もKPIに組み込む
4. コンテンツ、ビジネス、テクノロジー間の適切な関係性があって初めて事業は成長する

 実際のところ、「プレミアム」も立ち上げから2年しか経っておらず、サブスク型の事業としてはまだまだ試行錯誤の段階です。ただ一つ強く実感しているのは、サブスク型メディアは、「必要な人に必要な情報を届ける」というある種の社会的責務を背負ったメディアとは相性が良さそうだという点です。

「対象読者は限られるものの、その人たちにとっては必要な情報」を届けることは、オンラインの場合、実は紙媒体より相対的に高コストです。それはオンラインの世界で「コンテンツをユーザーに届ける力」が、Google やFacebook といったメガプラットフォームに集中しているためです。そのようなメガプラットフォームの上では、「玉石混交」なコンテンツが入り交じっており、「ニッチだけれど有益な情報」が「その情報を必要とする少数の読者」と出会うことが困難になっています。

 それはコンテンツメーカーにとって、最大公約数的な内容の記事でマスに訴求する方が、収益をあげやすいからにほかなりません。事業の収益をメガプラットフォームに依存する限り、読者を絞ったターゲティング型のメディアは継続が難しいのです。

 これは筆者個人の想いですが、「プレミアム」のようなサブスク型メディアは、そうしたメガプラットフォーム上での消耗戦から優秀な書き手を守ることもその意義の一つだと考えています。もちろん、それがなんとか道筋をつけられつつあるのは、100年以上にわたって積み上げてきたブランド、紙媒体で鍛えられた編集者・記者、オンラインメディア黎明期から集めてきたメルマガ会員、そうした過去の資産という大きな「ゲタ」を履いている要素があることには間違いありません。言い換えれば、他にないコンテンツを作る能力のあるレガシーなメディア(新聞社、雑誌社)こそ、メガプラットフォームに依存しないビジネスモデルを作るチャンスがあると思います。

 コンテンツメーカーがしっかりと自分たちの力でユーザーにコンテンツを届け、収益をあげられる仕組みを持つこと。それが「必要な人に必要な情報を届ける」ための、長くて遠い「近道」のはずです。

補足:本論で用いた用語について

初回課金率:有料会員に無料の試用期間がある場合(「プレミアム」は7日間)、新規に獲得した有料会員のうち、無料の試用期間を経てどれくらいが初回の課金を行ってくれたかという割合。初回課金するかどうかが大きな壁となるため、重要視される。

nカ月目の残存率:新規に獲得した有料会員が、nカ月目においてどの程度解約せずに継続しているかという数字。これを元に将来の収益計算を行う。

ユーザーのアクティブ率:既存の有料会員のうち、どれくらいがサイトに来ているかという割合。メディアによってどのような頻度を基準にするかは異なる。おおよそ以下のいずれかを採用することとなる。

・MAU(Monthly Active User = 月内にアクセスが1回以上あったユーザーの数)
・WAU(Weekly Active User = 週内に~)
・DAU(Daily Active User = 1日に~)

対象読者属性の含有率:新規に獲得した有料会員やサイトに来た既存会員における、ターゲットとしている属性の占める割合。想定読者と異なる属性のユーザーの比率が高いと、早期の解約やアクティブ率の低下につながるため、モニタリングをすることがある。

Graphic by Kaoru Kurata