部下の経験学習をマネージャーはどう支援するのか

永田 経験学習理論を取り入れているというお話でしたが、経験する→振り返る→教訓を引き出す→応用するという経験学習サイクルを回すうえでは「振り返りの壁」や「教訓化の壁」などのいくつかの壁があると言われています。まず、「振り返りの壁」を打破するために、マネージャーは部下にどのようなサポートができるとお考えですか?

働き方の多様な時代にマネージャーに求められる役割とは?「マネージャーの状況を部下が体験して理解することでチームが良くなっていく」と語る、人事企画部 人材開発室 課長代理の菊地謙太郎さん

菊地 内省(リフレクション)を促すには、上司と部下の間に信頼関係があることが不可欠です。「この人の言うことなら受け入れられる」という状況でなければ、何を言われても右から左ですから。日頃、部下とのタッチポイントをつくろうとしていない上司がその場しのぎで何かを言っても、反発を招くなど逆効果になりかねません。

桜井 熱心さゆえに答えを示したがるマネージャーも多くいますが、上司は問いを投げかけることで部下自身に答えを探させることも必要です。大切なのは、「どの観点から振り返るのか」という切り口の例を提供すること。手がかりが何もないなかで振り返るのは難しいものですが、切り口があると内省を深めやすくなります。

永田 切り口の提供において、何か参考にしているものはありますか?

桜井 当社社員として大切にしたい行動規範である「Our Eight*2 」があげられます。特に、新入社員には、これらを一つの切り口としながら自身の日々の経験を内省してもらっていますが、これを繰り返すことが「People’s Businessにおいて信頼される社員として成長する」ことに繋がるのだと考えています。

*2 Our Eightは、1.礼を重んじる。 2.ごまかさない。 3.人に関心を示す。 4.相手軸を意識する。 5.当事者意識を持つ。 6.目的を考えて行動する。 7.臆せずチャレンジする。 8.相手の期待を超える。

菊地 たとえば、若手が遅刻をしたときに、重要なのは再発防止策を考えさせて終わりにしないことです。「遅刻によって誰にどのような影響が生じたのか?」「そもそも、どのような社会人像が(あなたの)理想なのか?」といった、深くまでの内省をしてもらう。そうしたときに、この「Our Eight」は役に立っています。

永田 内省支援策としては、年に4回行われている、上司と部下のキャリア面談「役割チャレンジ面接*3 」もそのひとつでしょうか?

*3 上司・部下間で行われる年4回の定期的な面談。面談時には部下本人のキャリアビジョンの確認とすり合わせが必ず行われ、その内容にもとづいて当該社員の育成プランが設定される。

菊地 そうですね。キャリアについても上司は期待を先に伝えがちですが、いまはビジネス環境が複雑化してきているので、お互いに自己開示もしながら、キャリアに1つの明確な答えはない前提で一緒に悩み考えてほしいと伝えています。マネージャーにとっては難しい面接だと思いますが、たとえば、数年先の部下のキャリアをともに考えるなかで、業務目標と紐づけたストレッチした役割をアサインするなど、挑戦的な課題を本人にとって意味のある仕事として任せ切ることも、経験学習の効果を高めると考えています。