マネージャーの支援がカギになる人材育成の“3本の柱”
永田 すべての社員が多様性を認め合う企業風土を目指すなか、御社ではレバレッジ・ポイントをマネージャー・マネジメントに置いていると伺いました。全社員1万7000人のうち約3000人が管理職ということですから、マネージャー・マネジメントには課題も多いことと思います。
桜井 そうですね。働き方が多様になりつつあるいま、マネージャーに求められる役割は非常に大きく、かつ複雑になっています。そのなかで我々が重点を置いているのは2つ。1つは多様性を生かせるような組織風土や関係性、育成環境をいかにつくるのかという「組織マネジメント」の点。もう1つは、個の多様性をいかに引き出すのかという「個のマネジメント」の点です。
永田 それらの点を踏まえて、人事としてどのような学術的な知見をベースに、マネージャーが部下を育成する際の課題解決を支援しようとされているのでしょうか。
菊地 当社が人材育成の拠り所としている考え方は3つあります。1つめは、仕事における人の成長は「7(仕事上の経験):2(上司からの助言や影響):1(研修や読書)」による、という法則ですね。研修を次から次へと提供するよりも、OJTなど現場での経験をしっかり成長に繋げる支援をしたいと思っています。2つめは、経験学習理論。経験したことを内省して、成功したことも失敗したことも、次の経験に生かせるよう言語化・教訓化することで、成長スピードを高めていくという考え方です。3つめは、成功循環モデルです。これは、組織が成果を出すために、メンバー間の「関係の質」を高めることが、「思考の質」「行動の質」を高め、最終的には「結果の質」に繋がるという考え方です。この3つの理論を軸に、人が育つ環境づくりを目指しています。
桜井 以前から、部下の育成がうまくできている組織には、育成の「暗黙知」のようなものがありました。ただ、全社の育成力を底上げしていくためには、そういった暗黙知を形式知化する、つまり、ひとつのかたちとして見える化し、共有することが重要になります。それがあれば、どの職場でも自分たちが優先して取り組むべきことに注力することが可能になるからです。その観点で、我々人事としては、2015年あたりから、これら3つの理論をうまく活用しながら、目指す姿とそれを実現するための方策を可能な限り可視化するよう心がけてきました。いまは、それが着実に浸透しつつあると感じています。