“育て上手”なマネージャーの暗黙知を形式知に変えていく

永田 御社には“育て上手”と言われるマネージャーがたくさんいらっしゃると思うのですが、こうした方々の部下への指導方法はどのように言語化・形式知化されているのでしょう?

菊地 言語化すべきことは2点あります。ひとつは「いかにメンバーの多様性を生かすのか」ということです。「多様性を大切に」と言われると、優しさや心理的安全性を優先しすぎて、ただの“仲良し組織”をつくってしまいがちですが、そのようなマネジメントでは問題が生じますから、「どうすべきなのか?」という点を言語化する必要があります。もう1点は、他社とは違う「当社ならではの“育て上手”にはどのようなファクターがあるのか」ということです。そのために、“育て上手”と言われるマネージャー20人にインタビューを行い、その結果の分析を専門機関に依頼して、重要となる要素を抽出した「マップ*1 」を作成しました。

*1 東京海上日動では、このマップを「“育て上手”の『マネジメントマップ』」と命名。マネジメントモデルやマネジメントフレームといった命名案もあったが、正解があるような「あるべき姿」としてではなく、多様性を前提とした全体を俯瞰する「マップ」としたいという思いを込めたという。

永田 それは、いま菊地さんがおっしゃった2点を形式知化して、すべてのマネージャーとシェアするためのものでしょうか?

菊地 そうですね。「育成環境の整備」「成長機会の提供」「経験学習の支援」という3つのカテゴリーに14の要素を分類して、その関係性が一目でわかるマップに仕上げています。

永田 そうしたすべての要素を網羅できるマネージャーが望ましいということですか?

菊地 いえ、「すべてがパーフェクトに出来るようになってほしい」とか、「かたちどおりのマネージャーが望ましい」という意味ではありません。「マネジメントも多様であるべきで、それぞれの強みを生かした個々人の“芸風”のようなものがあると良いのではないか」というのが我々の考え方です。つまり、部下に対して、どこに力点を置いて、どのようにアプローチするのか(how)は人それぞれ。ただ、どのようなストーリーのもとに(why)、何を(what)すべきなのかという点は、共通のエッセンスとして形式知化すべきだと思ったのです。

永田 御社では2015年以降、「育てる本*2 」などで「こういう部下にはこう接した方がいい」「こういう場面ではこうした方がいい」など、ひとつひとつの要素については形式知化されています。今回はそこからさらに踏み込まれたということですね。

*2 2015年度策定の中期経営計画における人材育成方針「日本で一番『人』が育つ会社」に基づいて作成された、マネージャーの“場面ごとの指導法やアプローチ法”を解説した冊子。

桜井 そうです。全体をフレームワークとしてとらえたときに、どのような要素がどのように関連し合っているのか、という観点でマッピングしました。このマップを見ることで全体感をつかむことができるとともに、「自分は何が得意で、何が苦手なのか」を振り返る際の有効な切り口にもなると考えています。360度フィードバック*3 では、「自身のマネジメントのアプローチ手法のうち、どこをどのように変えるべきか?」というところまでを読み解くことは難しいため、現場のマネージャーからも「具体的なアプローチを検討するうえでこのマップがあると助かる」という共感の声は多くありましたね。

*3 東京海上日動の360度フィードバックはマネージャーと部下双方の成長に資する「ギフト」として位置づけられており、定量的な評価だけではなく、ポジティブな点を含めた定性的なコメントもフィードバックされる仕組みとなっている。