「メンバーを見る」ではなく「メンバーを観る」こと
菊地 多様性を生かすことのできるマネージャーの特徴について、マップを使って具体的に考えてみると…マネージャーは、まずメンバーそれぞれの特徴をつかみます。マップで言うところの「個々の持ち味を把握する」という項目です。そして、本人が活躍できるように「ストレッチした役割を任せる」という項目に着目し、さらにそこから、一人で抱え込まないよう「互いに関与し合うチームをつくる」という項目に移ります*4 。この3つの項目を大きな三角形として意識しているのが、多様性を生かすマネージャーの特徴なのです。ただ単に「多様性を生かすマネジメントを心がけてください」と言われても困りますが、マップを使えば、 “かたち”として見えてくるのです。
*4 「個々の持ち味を把握する」」「互いに関与し合うチームをつくる」という項目は「育成環境の整備」というカテゴリーに含まれる。「ストレッチした役割を任せる」という項目は、「成長機会の提供」というカテゴリーに含まれる。
永田 さらに、そのマップは御社内で“育て上手”と言われるマネージャーの皆さんが日常的に実行されていることからエッセンスを抽出されたものですよね。そのことも、マネージャーの皆さんの受け入れやすさに繋がっているのでしょうか?
菊地 おっしゃるとおりです。当社には、世の中で流行っている一般的なマネジメント手法にそのまま飛びつくことに違和感を覚える人も少なくありません。それに対して、このマップは、出来合いのものを外から取り入れるのではなく、「当社で大事にしてきたマネジメントをひとつひとつ言語化しよう」という原点回帰のような取り組みだった点も功を奏したのでしょう。
桜井 当社のマネージャーには、ハートフルでロジカルな人が多いという傾向もあります。そのため、概念や理念ばかりが先行すると全然響かないし、一方で、理屈のない熱量だけでも動かない。このマップは、長年、我々が脈々と実践してきたことをかたちに落とし込んでいるだけに、理屈としても納得感があるし、現場に根差した手触り感もある…ということで多くの共感が得られているのだと思います。
永田 コロナ禍でリモートワークが進み、部下の姿が見えづらくなってマネジメントが難しくなったことにもマップが価値を生みそうですね。
菊地 マップをつくるためのブレスト段階で、コロナ以前と以降で何が変わったのだろうということも話し合いました。そこであがったのは、「メンバーを見る」ではなく「メンバーを観る」という表記にしよう、ということです。目の前にメンバーがいないという状況になったことで、これまで以上にしっかり「観察する」ことが必要になる、という思いを込めています。
永田 なるほど。コロナ禍でのリモートワークや女性活躍推進による産休や育休の増加など、マネージャーの皆さんが対応しなければならない課題が大きく増えているなか、こうしたマップができたことでマネージャーの皆さんの心理的な負担も軽減されそうですね。
桜井 マネージャーは、あらゆることへの対処に追われながらとても忙しい毎日を送るなかで、自分は果たして適切なマネジメントができているのか、大きな不安を感じています。今回、このマップによって、必要となるマネジメントの要素が一目で分かるようにマッピングされたことで、自身が出来ているところ、出来ていないところを俯瞰的に整理することが可能になった。それだけでも心理的な負担が多少は軽減されて、余裕をもってメンバーと向き合えるようになりますよね。部下も、マップを見て、マネージャーがどれだけ幅広いことを日々考えているのかについて知ることで、より協力的になってくれるはずです。
菊地 育て上手のエッセンスを示したマップは、東京海上ブランドのマネージャー育成理論として我々も愛着を持っています。これからあらゆる局面で会社のメッセージと連動させながら活用していきたいですね。