アフガニスタンは
勇猛な部族の集合体
しかしなぜ大国がそんな失敗を繰り返すのか。2001年の米同時多発テロ事件発生から間もない頃、パキスタンとアフガニスタン国境近くで筆者が会った故中村哲医師の次の言葉にその答えがあった。
「アフガニスタンには私たちが想像するような国家は存在していません」
つまり、アフガニスタンは国家というよりは合従連衡を繰り返すしたたかで勇猛な部族の集合体で、中央政府の影響力は極めて弱く治安が常に不安定だということだ。同国で献身的な医療活動に従事していた中村医師も2019年、車で移動中に凶弾に倒れたことはみなさんご存じだろう。
「山の民の国」という意味の国名を持つアフガニスタンは、中東と中央アジアに挟まれた標高1800メートルの山岳地帯に位置する要衝だ。東と南にパキスタン、西にイラン、北にトルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、北東に中国と国境を接する多民族国家で、現在の人口は約3800万人。
アフガニスタンの歴史は大国の撤退でできた空白を巡る内戦の歴史だ。
1919年に英保護領から王国として独立し、73年のクーデターで共和国となった。その後はソ連軍の侵攻や米軍率いる有志連合による米同時多発テロ報復攻撃を経て、2002年に初代イスラム共和国大統領ハーミド・カルザイの政権が成立した。しかし、お粗末な統治で汚職がまん延。米軍が撤退した今はイスラム原理主義者組織タリバンが再び全土を制圧している。
2度目となるタリバン政権では女性の権利や言論の自由などを尊重するかのような発言を幹部がしているが、疑ってかかったほうがいい。
原理主義者である彼らは早晩1996~2001年に権力を奪ったときのようにシャリーア(イスラム法=神の教え)解釈を厳格に実施して国民に強制するようになるだろう。加えて宗教政権であるため、税金や産業振興、外交など国家統治の実務にまったく適しておらず、新たな混乱に陥る可能性が高い。