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米トランプ政権が「法の支配」に挑戦している。緊急事態の拡大解釈や関税政策など、大統領の強権的な手法に対し、米最高裁や米議会が果たすべき役割は。特集『総予測2026』の本稿では、憲法学の専門家にその行方と限界を聞いた。(聞き手/在米ジャーナリスト 岩田太郎)
大統領権限を“攻撃的に”拡大
「法の支配」脅かすトランプ氏
――憲法学が専門です。基本原理である「法の支配(rule of law)」(国家の権力者も含む全ての人が法の下で平等であり、権力は法によってのみ拘束されるべきであるという考え方)に対する第2次トランプ政権のアプローチをどう見ますか。
法の支配に対する挑戦であると思います。米国史においてトランプ氏ほど大統領権限を攻撃的に拡大し、違法な政策の実施を試みた者はいませんでした。また、復讐のために権限を利用する大統領も、いなかった。
――トランプ氏は「緊急事態」をより幅広く解釈し、“まるで多機能の軍用ナイフのように何でもできる便利な道具として使っている”との分析もあります。
米国憲法には緊急事態の例外条項が存在しません。緊急事態においても法の効力を停止することはできないのです。1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)のように大統領に緊急時の経済的な権限を与える法律は存在しますが、現在、米国社会が直面している問題に緊急事態といえるものはありません。
――トランプ氏は、米政府の行政権全体が例外なく全て大統領に帰属し、大統領の直接的な指揮・監督の下にあると主張(統一行政権理論)しています。一方で米最高裁判所は、経済的または政治的に重大な影響を持つ問題について、政府機関が行政権を行使するためには米議会が明確な権限を付与する必要があるとの立場(重要問題法理)です。トランプ氏の主張は正当でしょうか。
この先数カ月で、米最高裁の判事が、「統一行政権理論」と「重要問題法理」という矛盾する考え方について、どのようにバランスを取った判断を示すか見極める必要があります。どちらを支持する判決が出てもおかしくはありません。
――例えば、「トランプ関税」について、米最高裁は行政の力を制限する可能性があるでしょうか。
トランプ氏から見れば、関税は行政の担当する外交問題の一部であるので、憲法に基づき、政権に大きな権限が与えられるべきだとの立場です。ところが、トランプ政権を提訴した原告から見ると、関税は税金の一種であり、課税は憲法の定めにより米議会の所轄であるから、大統領は越権しているということになる。
――トランプ関税は米最高裁の審理を経て生き残るでしょうか。
「トランプ関税」に対して米最高裁はどのような判断を下すのか?次ページでは、9人の最高裁判事のトランプ関税に対する各々の見方を明らかにしながら、訴訟の行方を予想する。さらに、予算執行や米連邦準備制度理事会(FRB)への人事介入など大統領権限を巡る司法判断の先行きを占う。







