“自己紹介”が、学生と企業の関係性を高めていく

 採用の成否を握るのは、何と言っても“面接の進め方”だろう。オンラインでもリアル(対面)でも、面接時の面接官の姿が企業の顔となり、学生の志望度を左右していく。人手不足の中小企業では採用面接をどう組み立てていくべきか?

谷出 私は、面接官へのアドバイスで、「採用面接時は、学生に対して必ず自己紹介をしてください」と言います。なぜなら、内定を承諾する学生のほとんどは、その会社のことをしっかりと理解し、面接で出会った社員と一緒に働きたいと思っているからです。知名度のある人気企業なら話は別ですが、中小企業の場合、会社自体やそこで働いている人の素顔をほとんど知らない状態で内定をもらっても、学生は承諾になかなか踏み切れません。内定を出してからさまざまな社員を会わせることはできます。しかし、学生からすれば、できるだけ早い段階から、その会社で働く人たちの素顔を知りたいでしょう。採用面接に現場の社員が出てくることもありますが、そのときに適切な自己紹介をして、目の前の学生と人間関係をつくる気持ちで接することです。面接官の顔と名前、その社員が学生時代にしていたこと、就活時にどんな仕事をしたい、どんな会社で働きたいと思っていたかを学生が理解することに大きな価値があります。

 一般的に、自分の苗字と部署名を伝えるだけの自己紹介が面接官のありがちな姿勢ではないか。

谷出 多くの会社は、「○○です。入社5年目で営業をやっています。よろしくお願いします。今日は□□さんが学生時代に頑張ったことを教えてください」で終わります。この自己紹介は意味がありますか? 名前と入社年と現在の職種だけを伝えたところで、面接官の人となりは分かりません。自己紹介は「学生と企業の関係性を高めるため」という目的を面接官が理解したうえで、いちばん効果的なのは、自分がこの会社に入った理由を学生に正直に伝えることです。その理由に共感できるかどうかも面接官と人間関係がつくれるきっかけになったり、入社理由に影響したりします。「今日の面接官の話にすごく共感した。私の入社理由の考えと同じだ。自分の想いがかなう会社に入りたい、それがいま目の前にある会社なんだ」と思ってもらうこと。「○○です。私が就職活動をしたのはいまから4年前で、いろいろな会社を見るなかで、□□□□に魅かれてこの会社に入りました。現在の仕事は□□□□で、将来は□□□□をしたいと思っているので、そこに向けて頑張っています。今日はよろしくお願いします」といった自己紹介が望まれます。

 いわゆる“OBOG訪問”で、先輩社員が就活生のメンターになるようなコミュニケーションこそが、中小企業の面接の場には必要なのだろう。

谷出 「採用面接は企業が学生を見極める場」と考えている会社が多いです。しかし、中小企業の一次面接では、お互いの自己紹介を行うイメージで十分。学生は「この会社の人にもう一度会いたい」と思わないと、選考を受けるのをやめます。採用場面でよく言われる3つのマッチング「価値観・将来像・能力」が会社に合うか合わないかの判断は二次面接以降で確認すればいいでしょう。まずは親密なコミュニケーションを取り、たとえば、「9時5時の職場じゃないと働きたくない」という学生の就労観が自社に合わなければ、「なぜ、9時5時希望なのか?」の理由をコミュニケーションのなかで知ればいいのです。