大企業よりも中小企業が採用に有利なことも…
「ふさわしい学生の応募がなかった」「面接が期待外れに終わった」「就活生との価値観の相違があった」――冬になると、こんな声を漏らす採用担当者も多い*3 。就活を行う学生とともに、企業の人事部も疲労の色が濃く、学生の就職活動=企業の採用活動は、対策と対応のカードをお互いに出し続ける消耗戦のようだ。
*3 紙媒体「息子・娘を入れたい会社2021」(ダイヤモンド社刊)などにおける、筆者の企業取材より(「企業の採用担当者が匿名で語る“就活”のココだけの話」コーナー)。
谷出 多くの企業が「学生を選んでいる」という姿勢ですが、「学生に選ばれている」という視点を忘れてはいけません。就活生が複数の内定を持つ状況で、はたして、採用担当者は自分たちが選ばれるやりとりをしているか――「何月何日に連絡をします」と言いながら、期日の連絡を怠る会社さえあります。約束が守られないと、「この企業は大丈夫かな?」となりますよね。大学全入時代*4 傾向のなか、学生の母数は変わらないものの、社会に出るための能力が下がっているとも言われています。かつてと同レベルの学生を同じ頭数だけ採れない時代なのです。また、学生は口コミを参考にするので、「○○社の選考の対応が最悪だった」というネガティブな声を生まないようにしなければいけません。採用担当者は学生との健全なコミュニケーションづくりに注力すべきでしょう。
*4 「少子化と大学の入学定員の拡大が進行することに伴い、大学・短期大学の志願者のほとんどが入学できる状態になってきている。このことを形容する大学全入という言葉は、大学進学の需給関係の変化を象徴している。入学をめぐって激しい競争が行われる選抜性の強い大学が一部に存在する一方で、私立大学の47パーセント(平成20年度)は入学定員を充足できず、また、合格率が90パーセント以上という大学も100校以上存在する。このように,大学の入学者確保をめぐる状況が二極化しているが,総じて大学への入学が容易となってきている」(文部科学省 中央教育審議会 大学分科会/第71回 学士課程教育の構築に向けて答申/案 より)
大企業などが10月1日の内定式を終えても、秋の採用活動を続ける中小企業は多いが、谷出さんは、「すでに大企業の内定を持っている学生を振り向かせるのはなかなか難しい」と分析する。
谷出 まだどこの内定も持っていない、自社に合う学生を見つけるほうが得策かもしれません。そして、自社で活躍し、定着しそうな学生を見つけたら、入社理由を一緒に作っていく姿勢を持つことです。決して学生の意思だけに任せないこと。中小企業ならではの良さを採用担当者が伝え、学生本人に「確かにその考え方はアリだ」と思ってもらうことが必要です。自社の特性を明確に打ち出せれば、これからの時代は、大企業よりも中小企業のほうが学生を採用しやすいこともあります。大き過ぎるがゆえに機敏な動きができない企業、コロナ禍でビジネスモデルが変わっているのに対応しきれない企業、明日どうなるかも分からない大企業はたくさんありますから。