翌日の朝礼でB部長が業務命令を読み上げると、社員たちの間から大きなどよめきが起こった。特にすき焼きセットの話をした際、すでに1回以上ワクチン接種を終了、もしくは予約を終了している社員たちからは、「社長、太っ腹!」などと歓声が上がっていた。

ワクチンを打ちたくない社員はどうすれば?

 しかし朝礼の後、自席で執務を取っていたB部長の元にCがやって来て言った。

「部長、どうしてもワクチンの接種をしないといけないんでしょうか?」
「C君は体の調子でも悪いのか?」
「違います。自分は接種をパスしたいんです。だって接種後の副反応が怖いじゃないですか。重症化することもあるみたいですし」
「しかし、今年中にワクチン接種をしないと、来年会社をクビになるんだぞ」

 Cは反論した。

「それっておかしいですよ。だいいちワクチンの接種は個人の自由なはずでしょ? それがなぜクビの理由になるんですか? 納得できません」

 A社長の宣言に反対したのはCだけではなかった。業務命令が周知されてから1週間の間に、B部長の元には若手社員を中心に20名から、ワクチンを接種しない旨の申し出や、業務命令に対する批判が寄せられたのだ。
 
 若手社員たちの反応に驚いたB部長は、A社長にその旨を報告した。するとA社長は、

「社長である私の命令を聞かないとは! 皆に何と言われようと実行するぞ」

 と立腹した。しかしB部長は、

「社長のお考えは分かりますが、果たしてワクチン接種を拒否したからという理由で社員をクビにしていいのか、私には分かりません。実務を取り仕切る者として、この件はD社労士に相談してから判断したいと思いますが、いかがでしょう?」

 B部長の提案に、A社長は渋々了承した。