日本で大きな注目を集めた「両利きの経営」の著者でもある、ハーバードビジネススクールのマイケル・L・タッシュマン名誉教授。同校でリーダーシップの授業を多数教えているタッシュマン教授は、コロナ禍で一流企業のリーダーたちにどんなメッセージを伝えているのか。コロナ禍のリーダーに求められる姿勢、考え方、行動について語ってもらった。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
「両利きの経営」が
日本で大ヒットした理由
佐藤智恵 『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』が日本でロングセラーとなっています。この反響をどのように受けとめていますか。
マイケル・L・タッシュマン 日本での大反響には驚くばかりです。共著者であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・オライリー教授とともに、多くの読者に「両利きの経営」を読んでいただいていることを誇りに思っております。
なぜ世界のどの国よりも日本で人気が出たのか。その正確な理由は分かりませんが、この本が数ある経営書の中でも、テクノロジーのイノベーションに焦点を当てていることが日本企業のリーダーに共感された要因の一つかもしれません。
日本の多くの企業は技術主導型で、その経営者や管理職は、技術をベースにイノベーションを創出したり、実践したりすることの重要性を深く理解しています。だからこそイノベーターのジレンマ(優良企業が既存顧客のニーズを満たすためのイノベーションに注力した結果、破壊的な技術を持つ新興企業に負けてしまうこと)を解決し、「両利きの経営」を実践する必要性を強く感じているのだと思います。
「両利きの経営」(既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営手法)の本質は「今日を生き、未来のために備える」組織をつくることです。現在、世界はパンデミックのさなかにありますが、この概念は有事においても平時においても普遍的な考え方です。
佐藤 新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の「両利き」戦略にどのような影響をもたらしていますか。