武田薬品工業は昨秋に希望退職者を募集し、約500人が会社を去った。その1人である50代の元社員は転職で年収が激減したが、退職加算金としてまとまったカネを手にした。これを株式投資に充て、会社勤めからの解放を目指した。特集『資産1億円 本気で目指すFIRE』(全17回)の#5では、人生設計の見直しを迫られた元タケダエリート社員を追った。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
心は会社から離れていた
希望退職で人生を見直し
国内製薬最大手の武田薬品工業は2020年秋、国内営業部門のMR(医薬情報担当者)などを対象に「フューチャー・キャリア・プログラム(FCP)」なる施策を始めた。
前向きな印象を受けるプログラム名だが、要するに希望退職者募集である。
対象者だった1人、50代の男性社員はすんなりと応じた。武田薬品は近年、外国人経営陣の下で大胆な組織変革が続いており、職場の変化に戸惑う日々だった。「良いイメージで仕事ができないので、早く辞めた方がいいだろう」と早々に決断したのである。
辞めると決めたとき、まず心配したのが今後の収入と生活だ。各種の年金の受給が始まれば「それなりに生活は困らないだろう」と考え、「65歳までをどう生きるか」のプランを練り始めた。
幸いにも退職加算金の条件は最大60カ月分もあり、男性は上限いっぱいの金額を手にした。通常の退職金と合わせて約7000万円にもなった。
「このカネをどう運用したらいいのだろう」――
投資の知識はほぼゼロだったが、いったんはこのまとまった資産を株式投資で運用し、悠々自適の早期リタイア生活を夢見た。近年話題の「FIRE(経済的な自立を実現し、早期リタイアを目指すムーブメント)」である。
武田薬品から再就職支援を請け負った大手人材紹介会社によるマネープランセミナーに参加はしていた。しかし、あまりにも基本的な内容で、いざ投資を始めるとなると、ほとんど参考にはならなかった。同じタイミングで希望退職する同僚らと情報交換したり、本を取り寄せたりと、独自に勉強を始めた。