武田薬品「破壊と創造」#1Photo by Masataka Tsuchimoto

日本のレガシー企業の代表格だった武田薬品工業は外国人経営陣の下、グローバル化を一気に進めた。組織大再編で本社は実質的に米国へと移り、日本型雇用システムからの脱却も進む。特集『武田薬品 「破壊と創造」』(全7回)の#1は、激変した出世、給料の構造に迫る。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

新人よりもプロ採用
「出口」に早期退職プログラム

「新人を採るのは中小企業。武田薬品工業は優秀なプロフェッショナルを採用するべきだ」

 メガファーマ(巨大製薬会社)となった武田薬品の経営幹部たちは、社内でこう言ってはばからない。武田薬品の新人定期採用者数は近年、国内大手製薬会社と比べて1桁少ない数十人レベルに抑えられており、代わってキャリア採用が活発化している。

 とどのつまり、経営幹部たちは終身雇用を柱とする日本型雇用システムを疑問視している。それもそのはず、彼らの多くが競合他社や他業種でキャリアアップを重ね、今の地位を勝ち取ってきたからだ。

 雇用の行きつく先の「出口」も今の武田薬品らしい。通年実施の早期退職プログラムが用意され、「最大3年分の割増退職金が出る」(武田薬品関係者)。30歳以上の国内MR(医薬情報担当者)らを対象に2020年後半に早期退職募集をした際は、最大5年分の割増退職金が出た。

 昔の体制になじんできた旧タケダ社員は「上司は『不満ならいつでも辞めてもらっていい』という態度。良い意味で新陳代謝がいい、悪い意味で人が定着しない会社になった」と嘆く。クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)は誠実を旨とするタケダイズムを連呼するが、「タケダイズムが継承される落ち着いた職場ではない」と別の旧タケダ社員も不満を漏らす。

 働く環境の激変は悪い部分ばかりではない。以前の武田薬品では考えられないスピードで出世し、40歳前後で年収2500万~4000万円を手にすることも夢ではなくなった。まるでアメリカンドリームである。

 武田薬品はこの10年で、国内研究所を解体し、日本人社員を大リストラし、武田薬品の代名詞だった大衆薬「アリナミン」も売却。「破壊の10年」だった。この間に社員の出世、給料の構造は大きく変わった。