中国の不動産大手・中国恒大集団の債務危機が、世界のマーケットを揺るがしかねない重大な事態だとみられています。しかしこれは、成長率の鈍化が避けられない中国経済の山積する課題の解決に向けた、習近平国家主席の“リスクとの戦い”の始まりにすぎません。環太平洋経済連携協定(TPP)への唐突な参加表明の理由も含めて考えてみましょう。(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之)
「安定成長」でも多難な中国経済の見通し
労働力人口の減少で未曽有の事態に
中国恒大集団は広東省を拠点に、許家印氏が一代で築き上げた、不動産事業を中核とする企業グループです。多額の借り入れと積極的な投資で急成長し、最近では電気自動車(EV)や、運営するプロサッカークラブに高額年俸で有力選手を引き抜くなど、派手な多角化が注目を集めていましたが、6月末時点の負債総額が1兆9670億元(約33兆3000億円)に膨らみ、債務危機に陥りました。
これが、2008年のリーマンショック並みに世界の市場を数年間、凍り付かせるほどの危機となる可能性は、現時点では低いとの見方が多いようです。
しかし、中国経済は2020年代後半には、年間5%以上の成長率を謳歌してきた高度経済成長期から、年間3%前後の安定成長期へと移行する可能性が高いとみられています。中国社会はこれまで高度成長を前提に成り立ってきたため、低成長への移行に伴う経済環境の変化は極めて大きく、中国社会を揺るがしかねません。具体的に、何が起きるのでしょうか。
まず、出生率の低下は人口減少をますます加速させます。中国の人口ピークはかつて、2029年に訪れるといわれていましたが、最近では4年早まり、2025年に訪れるとの見方が強まっています。
高齢化が進む一方、労働力人口が減るわけですから、社会保障費の増大で政府の財政負担が増え、消費の伸びが鈍化し、労働者の賃金は上昇します。これが、中国の今後の経済をスローダウンさせることにつながります。