まずこの層の特徴ですが、コロナ禍で経済的なダメージを受けていないという点が重要です。

 コロナ以前の日経平均がだいたい2万4000円ぐらい。コロナ後に外国人投資家が日本株を買いあさったこともあって最近の日経平均が2万8000円ぐらい。中国の恒大グループの経営危機や、アメリカのFRBの金利引き上げなどの影響があって先行きの若干の不安はあれど、富裕層は総じてコロナ禍の1年半で資産は増えています。

 単純計算でこの1年半の日経平均が16%増ですから、1億円の金融資産を株で持っている人の資産は1600万円増えた計算です。実際、富裕層は金利の低い銀行には資産を預けないので、1億円を株式連動の投資信託にしているというのは、想定としては(比較的低く見積もったとしての)平均像だと言えます。

 つまり、富裕層は昨年、800万円を使っちゃったとして、今年もさらに800万円が使えるぐらい、手持ち資産が増えているということです。

 これがどんな消費に向くかというと、既述のように車の買い替えもあるのですが、それなりに堅いのが飲食消費です。私も仕事柄、この層のみなさんとお付き合いがあるのですが、だいたい一食で3万円から10万円ぐらいのお店というのが、彼らのお好みです。

 緊急事態宣言に入る直前に菅前首相が銀座の高級ステーキ店で会食をしたことが問題になりましたが、基本的にあのランクのお店で富裕層は週2回ぐらいは食事をします。

 ここではマクロ経済への影響を見たいので、モデルとしての前提を設定したいと思いますが、少なめに見積もって年間40回、一回5万円の食事をするとすれば年間予算は200万円ぐらいということになります。

 ちなみにこの金額は、情報開示させていただくとコロナ禍以前の私個人の評論家としての会食予算とほぼ同額です。前述のとおり私は下戸なので、食事1回あたりの費用はそれほど大きくありません。吟醸酒好き、ワイン好きの富裕層の実態はその倍はみておいたほうがいいかもしれません。

 私個人の場合は、コロナ禍でこの予算執行は、ほぼほぼゼロになりました。正確に数えてみると、過去1年間で2万円程度のディナーないしはランチに行ったのは4回のみ。それ以外、ずっと使わずに我慢していたことになります。

 私の仕事にとって会食を通じて経営者や投資家の話を聞くことがとても大事で、会食のないこの1年間は情報入手レベルがかなり劣化してきたと反省しています。この秋、できる範囲内でルールにのっとった会食を増やしたいと思っていますが、それと同じ消費ニーズに関して、富裕層全体では予算十分という状況です。

「資産が増えたのにコロナ禍で使えていない」という富裕層の予算は、このような会食予算と前述の海外旅行予算、あとは別枠としてそれに伴う服飾予算も残っているでしょう。人と会わないので、着飾る必要がこの1年なかったわけです。

 概算でいえば富裕層1世帯あたり500万円、国全体(つまり133万世帯合計)で最大6.5兆円のお金が「ようやく使えるようになった!」というリベンジ消費に向かう可能性があるわけですから、ここは消費喚起という意味で非常に意味のある話だと思います。

 現実には、すでに京都や箱根といった観光地で高級ホテルや旅館の10月以降の予約が取りにくくなっているという話があります。それ以外にも、百貨店でリベンジ消費と思われる、普段それほど回転しない特別な品物が売れていくといったシーンもよく見られているそうです。