「自己肯定感」の高さにはふたつのタイプがある

 教育現場においても、ビジネスシーンにおいても、学生や就労者の「自己肯定感」は重要であり、個々人の行動力を左右するものと、学校の教師や企業の管理職は考えがちだ。しかし、「自己肯定感」の高さは、正しい行動力に必ず繋がるものなのだろうか。

 たとえば、次のようなケースがある。

 何かの仕事に対して、「これはできない、それは無理だ」と言って断る人物A――できないことには手を出さず、できることしかしないビジネスパーソンである。自分のことを分かっているという意味での「自己肯定感」は高いが、管理職が適切な指示を出しても、できる範囲までしか実行せず、「これ以上はできません」と止めてしまう。

「できる、やる」とは言うものの、なかなか行動せず、さまざまな理由をつけて動かない人物B――仕事を任せれば了承するが、管理職が進捗状況を聞いてみても一向に進んでいない。理由を尋ねると、できない理由を並べ、仕事が進められないことを訴えるといった人物である。

 これらのケースでは「自己肯定感」と行動が結びついておらず、「自己肯定感」が高いことは良いことばかりではないと思ってしまう。

 人物AもBも自分のことをよく分かっていて、自分に価値があると信じており、「自己肯定感」は高い。しかし、こうした人物は、自分を他者と比較したうえで、その優劣から相対的な自分の価値を感じて、「自己肯定感」を高めている。そのため、「自分が周囲の人より優れているか劣っているか」を気にすることで、行動をためらうのである。SNSでの承認欲求の高まりや「マウント」という言葉の流行を見ると、他者との比較で自分の価値を認識し、「あの人よりマシ」と思うことで「自己肯定感」を高めている人物が多いように私は思う。

 自分の価値を他者との比較で認識すると、自分の行動の優劣ばかりを気にするようになる。失敗を恐れ、本当にできると分かっていることを中心に行動し、できないことには手を出さないという「自己肯定力は高いが、行動力が伴わない人物」になりがちである。

 つまり、「自己肯定感が高い」人物には、ふたつのタイプが考えられるだろう。

「他者存在の有無にかかわらず、自分の存在そのものに価値があると思う人」と「他者の存在を強く意識し、他者との比較によって自分には価値があると思う人」である。

 前者は、失敗しても自分の価値を変えずに肯定できるので、未知の仕事への拒否感はないが、後者は失敗することで自分が他者よりも劣っていると考え、未知の仕事に対して消極的になる。