「5G」が引き起こした
半導体業界の構造的な問題

 そして3番目に、半導体の場合は業界固有の大問題があります。それを引き起こしたのは2020年にスタートした5Gです。

 鳴り物入りで始まった5Gですが、まだまだその本領は発揮できていないと思われます。「まだ5G携帯に買い替えていないし」という意見もわかりますが、5Gの最大の期待領域は個人端末の通信速度の向上ではなく、IoT、つまりモノがインターネットにつながる領域です。

 これを実現するために今、半導体業界では大量の新規需要が生まれています。しかし、当然のことながら半導体不足の中では5G投資は後回しにせざるをえません。

 しかも、問題はそれだけではありません。5GのIoTに関連した半導体は、減価償却が終わった古い生産設備で安価に製造する必要があるのです。詳しく解説しましょう。

 半導体メーカーにとって、最新鋭の設備で製造する必要があるのはiPhone13のコア部品のような、最先端の技術を駆使した半導体です。そのために莫大な投資を行います。

 一方で、IoTに使うような半導体の多くは既存の設備で安価に生産可能なもので、製造に最新鋭の設備は不要です。安い半導体部品を作る工場は、新規で投資すると割に合わないという現実があります。

 例えて言うと、タワーマンションを建築してもうけていたら、急に中古マンションの需要が増えたようなものです。

「だったら中古マンションを大量に生産すればいいじゃないか」と言っても、それはできない。新規に中古マンションと同じグレードの建物を建てても価格が割高になるからです。

 そのような経済メカニズムの結果、シンプルな半導体部品の方が入手困難になってくるわけです。しかも、そのような簡単な半導体部品でも手に入らなければ自動車は完成できず、結果として納車することもできないのです。

 個人的な体験ですが、この2月、新車を購入しようとしたら、納車が5月まで遅れました。その際に、「後方をチェックするドライブレコーダーの部品が手に入らないので、そこは勘弁してください」と言われました。メーカーオプションなので省いて購入しましたが、それを発注して到着を待っていたら、もっと納車が遅れたそうです。

 このように不足する半導体を含めて、世の中の電子制御製品はひとつの製品として売られています。ですから、コロナ回復後も3番目のボトルネックが解消されるまでは、半導体不足は長期化することが懸念されるのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)